赤ちゃんそれぞれに
向き合う活動
赤ちゃんはみんなそれぞれ違うから
生まれたときの赤ちゃん
一人ひとりの個性にあった
哺乳器をつくるために
すべての赤ちゃんのために、授乳という赤ちゃんとママの大切な時間に寄り添いたいー。
この思いから、さまざまな赤ちゃんたちの栄養摂取の手助けをするため、ピジョンは哺乳器の研究開発を60年以上行い、それぞれの赤ちゃんに適した哺乳器を提供してきました。
ピジョンが病産院との共同研究で培ってきたことや病産院向けの哺乳器を使っている赤ちゃんの様子などを、病産院と共同で研究を進めているピジョン株式会社 開発本部の森 知佳子さんに聞きました。
NICUやGCUに入院している
赤ちゃんの
哺乳の様子を観察
ー森さんが普段、病産院と共同されている活動についてお聞かせください。
森 知佳子さん(以下、同じ)
病産院との共同研究は、NICUやGCUに入院している早産児の最初の哺乳を観察することを目的にスタートしています。項目として呼吸の指標を、また経口哺乳の前段階でおしゃぶりを用いるなど「哺乳」を軸に様々な観察をおこなっています。
実際に週に一度、病院に訪問させていただき、NICUやGCUに入院中の赤ちゃんにピジョンの人工乳首を使ってもらいながら、病院で研究しているテーマに沿って観察のモニタリングをさせていただいています。
NICUやGCUに入院されている赤ちゃんは、お母さんと離れていて直接授乳ができない状態のため、人工乳首を用いて最初は5ml程度と10mlにも満たないような少量から哺乳を始めます。そのときの吸啜(きゅうてつ)の強さや、呼吸と協調して上手に飲めているかどうかということを観察しています。
ーこの共同研究は、最終的にどういったところを目的とされているのでしょうか。
赤ちゃんって、最初からおっぱいをうまく飲めるようなイメージがあると思うんですけれど、誰もがそういうわけではないというのを観察からも感じています。
特に低出生体重で生まれた赤ちゃんは、飲み込んだり呼吸したりといった協調運動が難しいとされています。それをどんなアイテムを使ってサポートするかということはもちろん、どれくらいの週数で、どんなコンディションで、体重はどのくらいのときに協調運動がうまくいっているのか、うまくいっていないのかというところを病院の先生方と共に観察していきながら、低出生体重で生まれた赤ちゃん、NICU・GCUに入っている赤ちゃんのケアに活かすことが最終的な目的です。
ーNICUやGCUには、どのような赤ちゃんが入院しているのでしょうか。
おもに1000g未満の低出生や疾患を持って小さく生まれた赤ちゃんが入院されています。小さく生まれた赤ちゃんは飲む力がとても弱いので、栄養摂取の手助けが必要になります。
また、口唇口蓋裂の赤ちゃんも入院されています。口唇に披裂があると乳首をうまくくわえられなかったり、お口の中で密閉空間をうまく作れなかったりするため、通常の乳首ではうまく哺乳できないということがあります。
赤ちゃんの哺乳の様子を
つぶさに観察し伝えるのが役目
ー病院観察には週1回通われているということですが、赤ちゃんの様子は、やはり1週間でもかなり変わるものなのでしょうか。
おっしゃる通りで、1週間のうちに「どんなきっかけでこんなに上手に飲めるようになったのだろう?」と思う場面が多々ありました。またある赤ちゃんでは、最初の哺乳のときは連続して哺乳ができず、チュッチュッチュっと吸ってはそのあとお休みをして、また吸って、お休みして……というリズムだったのですが、1週間後には連続して飲めるようになっていて、「赤ちゃんの成長ってすごい」と驚いたのをよく覚えています。
この赤ちゃんに限らず、1週間の中ではいろいろな出来事があって、手術をしたり、処置をしたり、乳首のサイズが変わったり。いろいろな出来事があるので、何が要因なのかっていうのは週に1回ではすべて見切れない部分もあるのですが、赤ちゃんの成長をリアルに感じられることがとてもありがたく、そして貴重な経験をさせていただいていると感じています。
ー赤ちゃんそれぞれの成長があると思いますが、その成長をサポートするために、森さんにとって最も大切な役割はなんでしょう。
実際にNICUやGCUの赤ちゃんにピジョンの人工乳首を使っていただいて、やわらかさや形状、ミルクが出る量が赤ちゃんにとって適しているかどうかといった現場のリアルな情報をうまく感じ取ること。そして、赤ちゃんたちにベストなものを目指してブラッシュアップしていけるよう、設計チームに伝えていくこと。この2点です。そこをがんばって取り組んでいきたいと思っています。
ー設計の方々からは、どんな情報が欲しいとリクエストされているのでしょうか。
人工乳首で哺乳しているときに、どのような状況でどのようなことが起きているのか、できる限り詳細な情報がほしいと言われています。映像では見えなくても、目視だと見えることは意外とあって、たとえば哺乳中の口元で人工乳首がどのようになっているか。うまく通気できていれば問題はないのですが、うまく通気ができていないと人工乳首がつぶれたままもとに戻らない状態になるというようなことがあります。
こうした、哺乳中のお口まわりの状態は、お顔のまわりに布や看護師さんの手など、いろいろなものもあったりするので、映像だけではわかりにくいんですね。目視でその状態や変化をキャッチして、それをしっかり言語化して伝えることの重要性を感じています。
小さく生まれた赤ちゃんの
心に残ったエピソード
ー実際にNICUに通い、赤ちゃんと接してきた中で、印象に残っている出来事はありますか。
特に、参加させていただいて初めて会った、800g未満で生まれたある赤ちゃんです。最初はお口での哺乳も難しく、鼻から管を通して胃に直接ミルクを入れるような状況でした。
赤ちゃんがおっぱいを飲むのには、乳首をパクッとくわえ(「吸着」)、舌の動きで母乳を引き出し「吸啜(きゅうてつ)」、ゴックンと飲む「嚥下」という「哺乳の3原則」があるのですが、赤ちゃんがその3原則をお母さんのおっぱいでできなくて、最初はおしゃぶりを使って、チュッチュに慣れていくというところから観察させていただきました。
鼻の管が取れて、経口哺乳(お口からの哺乳)が始まってからも、最初は15mlの少量からしか飲めず、またくわえ方が浅くて手前でチュッチュチュッチュするような飲み方だったんです。それが7週間継続して観させていただく中で、自分の哺乳リズムができて、どんどん上手になっていき、ミルクの量も55mlくらいに増えていって......。それがすごく印象に残っていますね。
その後、体重も順調に増えどんどん体調もよくなって無事に退院され、ちょうど先日、通院のタイミングでお会いすることができ、元気に歩いている姿やご家族の笑顔を拝見してとてもうれしかったです。
ーそれはうれしいですね! 授乳はお母さんがされる場合が多いのでしょうか。
病院では、1日8回の授乳の時間がありますが、面会の時間も決まっているため、お母さんが授乳される場面に立ち会えることはなかなかありません。通常は、看護師さんが授乳しているところを観察させていただいています。
でも、これまでに一度、低出生体重の赤ちゃんの初回の経口哺乳をお母さんがされているところを観察させていただく機会がありました。
このときはお母さんがご自宅でさく乳された母乳で、かつ、ご自身もはじめての授乳ということでした。お母さんは「飲めてる、飲めてる」と、お子さんが母乳を一生懸命飲んでいる様子をみてとても喜んでいらっしゃっていました。
哺乳としては初めてということもあり、リズムも安定せず連続して飲めないなどまだ不安定だったのですが、小さく生まれて離れて過ごすお子さんが母乳を自分でちゃんと飲めているという成長をご自身の腕の中で実感できるというのは、喜びもひとしおだろうと感じました。
そのお気持ちがひしひしと伝わってきて、私たちも見ているだけで、うれしさでいっぱいになりました。「飲めてますね」と、看護師さんとかお医者さんと一緒にお声掛けしました。
病産院用哺乳器の特徴
ー産院用の哺乳器は何種類かあるそうですが、それぞれの特徴を教えてください。
はい。まず、「母乳実感 直付け乳首」というものがあります。こちらは、基本的には吸啜(きゅうてつ)に問題がない赤ちゃんに対して適切なやわらかさで、適切な量が出てくるように設計がされたものになります。
SSS・SS・流量大という3サイズがあるので、体重や週数に合わせて選んでいただいています。それぞれ乳首のやわらかさ、直径、ミルク孔のサイズなどが異なっているため、看護師さんがそれぞれの赤ちゃんに合わせて、「最初はこれからチャレンジしてみようか」とスタートして、徐々にステップアップしていく流れになります。
続いて、「弱吸啜用乳首」は、形状が一般向け乳首に比べてスリムで、小さなお口にフィットするようになっています。やわらかく適度な厚みのシリコーンゴムで、吸啜(きゅうてつ)が弱い赤ちゃんでもつぶしやすく、ミルクが出やすい点が大きな特徴です。赤ちゃんの状況に合わせて、この「弱吸啜用乳首」と「母乳実感 直付け乳首」を使い分けできるようにしています。
「口唇口蓋裂児用哺乳器」は、乳首のやわらかさと肉厚が、部分によって異なります。乳首の下側は弱い吸啜(きゅうてつ)でもつぶしやすいように肉薄になっているのですが、上側は肉厚になっていてやや硬めです。肉厚を変えることによって、お口に裂のある赤ちゃんも、舌で乳首を軽く押すだけで飲めるようになっています。また、びんがやわらかいので、飲む量やペースのサポートが必要な場合には、びんを押すことで分量を調整することができるようになっています。
「細口哺食器」は、赤ちゃんの飲む量に合わせて、傾き具合とびんを押すことで、中身の量を調節できる哺乳器です。口唇口蓋裂のお子さんの手術後に使われることが多いのですが、お口の手術後は、赤ちゃんによってはお口まわりが敏感になってしまって、乳首をくわえることができないことがあります。そういった場合にも役立っています。
ーさきほどのお話でおしゃぶりも使って観察されるとのことでしたが、そのおしゃぶりはどのようなものなのでしょうか。
赤ちゃんはお腹の中でチュパチュパと指しゃぶりをしていることがあるといわれている、つまり生まれてから実際に哺乳する前に吸啜(きゅうてつ)運動がスタートしているということがわかっています。ピジョンが提供している「Preemie Care」というおしゃぶりはその吸啜(きゅうてつ)運動をサポートするアイテムになっています。
また、赤ちゃんは乳首を吸っているとき、チュパチュパしてるときに落ち着くといわれていますので、採血するときや皮膚の検査する場面などで泣いてしまって身体に負担がかかりすぎないように、おしゃぶりをくわえてもらうことで安心させてあげるようなかたちで使っていただいています。
これから出産・育児を迎える
ママとパパ
育児・授乳中のママとパパへのメッセージ
ーこれから出産・育児を迎えるママとパパ、育児・授乳中のママとパパへのメッセージをお願いします。
NICUやGCUに通わせていただいて思うことは、小さく生まれたり早く生まれたりしてお母さんと離れて過ごしていても、赤ちゃんは着実に大きくなって、成長するんだということです。
また、お母さんやお父さん、ご家族だけではなく病院の医療従事者の方々など大勢の方々が、赤ちゃんの成長を願って日々ケアにあたっていらっしゃるということです。
お母さんやお父さん、ご家族はお子さんが入院されて不安なことも多くあるかと思いますので、安心してくださいと安易にいうことはできませんし、いえる立場ではないのですが、赤ちゃんはしっかり自分の力で一生懸命生きようとしているというのを現場で強く感じます。お母さん、お父さんにはその「力」を信じていただければ大丈夫ですよとお伝えしたいな、と思います。
最後に、実際に私たちがお子さんを観察させていただくことに対してご理解ご協力をいただいたお母さん、お父さん、ご家族に対して、この場を借りてありがとうございます、と感謝を申し上げたいです。
この貴重な機会を大切に、ピジョンの病産院アイテムを通して、赤ちゃんの成長に貢献できたらとてもうれしいです。
NICUやGCUの赤ちゃんの哺乳の様子を確かめ、赤ちゃんの成長を肌で感じ、医療従事者やご家族など現場の声を吸い上げて、それを研究開発に活かしているからこそ、たくさんの赤ちゃんをサポートする病産院用アイテムが生まれました。生まれたときの赤ちゃん一人ひとりの個性にあった哺乳器をつくるために、ピジョンの活動はこれからも続きます。
ピジョン株式会社
開発本部 設計開発部
設計開発グループ
森 知佳子さん