「哺乳びんはどれも同じ?」をくつがえす
ピジョンのこだわりが詰まった
母乳実感®哺乳びんの
開発ストーリー
2002年の発売以来、赤ちゃんがおっぱいを飲むときと同じような哺乳運動ができる哺乳びんを目指し、母乳実感の研究開発を進めてきたピジョン。
3代目となる母乳実感哺乳びんに込められた開発者の想いを、母乳実感の乳首開発担当の小山 聡さんと母乳実感のびん開発担当の太田 貴則さんに聞きました。
お母さんのおっぱいとの併用が
スムーズになる
「やわらかさ」を実現
ー今回開発された新しい母乳実感乳首では「やわらかさ」がより向上したということですが、なぜ「やわらかさ」が必要だったのでしょうか。
小山 聡さん(以下、小山)
ピジョンの哺乳びんでは、赤ちゃんがお母さんのおっぱいを直接飲みながら、哺乳びんもちゃんと使える状態を作ってあげることを大切にしています。哺乳びんとお母さんのおっぱいのどちらかを嫌がることなく、それぞれの行き来がスムーズになることを目指してものづくりをする中で、よりお母さんのおっぱいのやわらかさに近い乳首にする必要性を感じ、今回、素材も新しく開発することになりました。
ー「やわらかさ」を実現するために、どのようなことをしたのでしょうか。
小山:乳首の素材はシリコーンゴムを使っているのですが、ゴムのやわらかさは「硬度」として数値化します。数値が大きくなるほど硬いレベルになるのですが、消しゴムの硬さが30度くらいです。今回、ピジョンでは、お母さんの乳頭のやわらかさを再現するために、乳首専用の硬度11度のシリコーンゴムを新たに開発しました。硬度11度のシリコーンゴムは既に世の中にあるのですが、赤ちゃんが噛んでも裂けないか、衛生面でも問題ないか、といったところをクリアする哺乳びんの乳首に適したものは今までありませんでした。
実際の開発においても、シリコーンの素材をやわらかくしていくと裂けやすくなってしまうという課題があり、そこには苦労しました。やわらかくて裂けにくく、衛生性を担保できることを念頭に置きながら試作を重ね、お母さんの乳首のやわらかさにまた一歩近づくことができました。 ※シリコーンゴムの性質上、硬度には多少のバラつきがあります。
月齢で吸う力も飲む量も
噛む力も変わるからこそ
吸い穴のサイズだけでなく
硬度にも違いを
ー母乳実感乳首にはSSから3Lまでの6つのサイズ展開がありますが、サイズごとにシリコーンゴムも違うのでしょうか。
小山:はい、違います。他のメーカーさんは多くの場合、哺乳びん乳首のサイズは基本的に同じで、先端の穴の大きさだけ変えてミルクの出る量を変えて月齢別に展開されていると思いますが、ピジョンの母乳実感乳首は先端の穴の大きさだけでなく、サイズによってシリコーンゴムの硬度も変えています。赤ちゃんの月齢によって吸う力も飲む量も噛む力も異なります。そのため、低月齢の赤ちゃんが使うSSサイズの乳首はお母さんのおっぱいに近いやわらかさのものを、高月齢の赤ちゃんが使うLLサイズの乳首は、歯が生えてきて噛んでしまう場合があるので、それに耐えられる強度の硬さのものを……というように、小刻みに展開しています。
ーサイズも材質も月齢に合わせて変えて、ここまで小刻みに展開するのは大変なのでは。
小山:そうですね。硬度が変わってくると、それに合わせた形状を考える必要がありました。どのサイズの乳首もまったく同じように見えるのですが、実は、少しずつ形が違うんですね。その形に合った設計をサイズごとにしていかなくてはいけないというのが、大変だった部分です。また、硬度11度のシリコーンゴムは扱いが難しく、金型から取り出す作業ひとつとっても苦労しました。
ピジョン独自の
赤ちゃんが乳首をくわえる
位置の目安
「ラッチオンライン®」
ー「ラッチオンライン」は、どのように開発されたのでしょうか。
小山:ピジョンでは、乳首をパクッとくわえ(「吸着」)、舌の動きで母乳を引き出し「吸啜(きゅうてつ)」、ゴックンと飲む「嚥下」という「哺乳の3原則」を大事にしているのですが、そのひとつである、適切な「吸着」に導くために「ラッチオンライン」が開発されました。
しっかり「吸着」できていないと母乳やミルクが赤ちゃんの口角から漏れてしまったり、お母さんの乳首に傷ができてしまったりするんですね。そこで、適切なくわえ込みの深さを目安となるラインで示そうという話になったんです。
ーラッチオンラインは、なぜ波型なのでしょうか。
小山:直接授乳をしている赤ちゃんのくわえ込みの研究から適切なくわえ込みの深さを数値として出したので、直線的なラインにすることもできたのですが、直線的なラインにしてしまうと、「必ずそのラインぴったりにくわえさせなくては」と、お母さんやお父さんが思ってしまう心配がありました。 そこで、ラッチオンラインを「目安」や「サポート」として受け取っていただきたいという思いから、波型にしたという経緯があります。
耐熱性に優れたガラスと
高い安全性にこだわったびん
ー続いて、母乳実感のびんについてお聞かせください。使用しているガラス素材はどのようなものなのでしょうか。
太田貴則さん(以下、太田)
「ホウケイ酸ガラス」というガラス素材を使っています。家庭で使われているような一般的なグラスやコップの多くは、ソーダガラスと呼ばれるものです。
ホウケイ酸ガラスは、理化学用のビーカーや試験管、フラスコなどに使われるガラスで、温度の急上昇・急降下に対して強い耐性をもっている点が大きな特徴です。ホウケイ酸ガラスにはグレードがあり、最もグレードが高いガラスは、直火にかけられるものですね。母乳実感哺乳びんは、煮沸ができるグレードのガラスを使っています。
ーピジョンならではのこだわりや基準についてお聞かせください。
太田:単純にJIS規格(製品の形状や品質、性能、安全性などを定めた日本産業規格)を通っているからよいということではなく、ピジョンだけのオリジナルの試験がたくさんあり、そこをクリアした安全性の高さですね。
安全性については、中身が触れるびんの内側だけでなく、外側についても、内側と同じ安全性を基準にしています。びんの外側は食品に触れないため、一見特に気にしていないと思われるかもしれませんが、そこはピジョン独自のこだわりにより、びんの外側はもちろん、部品に使用している材料まで、食品衛生法に則った食品に接触しても問題ない材料を選んでいます。全てのパーツが安心してお使いいただける哺乳びんになっています。
ガラスびんに施された
きれいなデザインと形状の秘密
ー新母乳実感からガラスびんにもとてもきれいなデザインが施されるようになりました。これは、どのように実現されたのでしょうか。
太田:1つ前のモデルは楕円形だったので、ボトルのすべての面に均一に印刷すること……私たちは“全周印刷”と呼んでいるのですが、全周印刷が難しかったんですね。今回、ボトルの形状を円筒状にすることで、ガラス製の哺乳びんもプラスチック製の哺乳びんも、全周印刷がかないました。
ボトルの形状は、デザイナーから円筒状のデザインが上がってきたときには、正直、マジか思いました(笑)。ガラスは厚さ均一にコントロールするのが難しくて、曲面の急激な変化がある部分や、瓶底に近い胴回り部分が薄くなりやすいんです。そういう部分にも適切な肉厚をキープさせために調整を重ねたのですが、上手くいかず胴回りがさらに厚くなってしまうなどの課題がありました。
ガラス業者さんと何度も協議を重ね、理想の形に仕上がりました。ボトルの形状が完成したときには、よろこびよりも、ホッとする気持ちのほうが大きかったですね。
安全性と品質を兼ね備えた
プラスチック哺乳びん
ー母乳実感のびんに使われているプラスチック素材について教えてください。
太田:PPSU(ポリフェニルスルホン)という、医療機器などにも使われる耐熱性、耐薬品性にも優れた高機能樹脂を使用しています。
プラスチックにもいろいろな種類があり、日常的に使われているのはPP(ポリプロプレン)やPE(ポリエチレン)が多いと思いますが、母乳実感哺乳びんに使用されているPPSU(ポリフェニルスルホン)は「スーパーエンジニアプラスチック」という、医療機器などにも使われる耐熱性、耐薬品性にも優れた高機能樹脂です。
ーPPSUを選定された理由をお聞かせください。
太田:哺乳びんの消毒には大きく分けて3つあって、煮沸消毒、電子レンジ消毒、薬液消毒が一般的なご家庭でやられる方法だと思うんですけれど、どれも過酷な環境下での消毒になります。こうした環境に耐えられる樹脂というのがそれほど多くない中、PPSUは問題なく耐えられるということで採用しました。
ープラスチック哺乳びんついて、ピジョンならではの基準やこだわりはありますか。
太田:材料そのものに関しても徹底的に衛生面と安全性を追求しています。例えば、プラスチック製品のような高分子物質や他に使用している材料の安全性については、今後も世界中で厳しい規制が設けられる可能性がありますので、常に動向はウォッチし続けますね。
また、よく、お取引先からピジョンの品質は厳しいと言われますが、私たちにとってはいたって“当たり前”の品質ですので、多分それが“ピジョン”のモノづくりなのかなと思います。
開発担当が語る
哺乳びん選びの視点
ーどのような視点で哺乳びんを選んでもらいたいですか。
小山:哺乳びんの乳首の形がご自身の乳首の形に似ているかどうかで選ばれるお母さんも多くいらっしゃるようですが、自分の形に似ているかではなく、赤ちゃんがおっぱいを飲む口の動きにフィットする飲みやすい形であるかどうかで選んでいただきたいと思います。また、赤ちゃんがお母さんのおっぱいと同じように飲めるやわらかい乳首であるかどうかということも、選定ポイントに入れていただきたいですね。
太田:乳首の機能が優れているかどうか、赤ちゃんが飲みやすいかどうか、ということだと思います。なかには、見た目がかわいいからこっち!という方もいると思うんですけれど、機能性や、どれだけ赤ちゃんによいものであるかどうかということが大切だと思います。哺乳びんの乳首に必要な機能は何か、赤ちゃんにとって一番大切なことは何か…という情報をキャッチしていただくと、ピジョンの哺乳びんが一番いいということを理解してもらえるんじゃないかなと思います。
これから出産・育児を迎える
ママとパパ
育児・授乳中のママとパパへのメッセージ
ーこれから出産・育児を迎えるママとパパ、育児・授乳中のママとパパへのメッセージをお願いします。
小山:母乳をあげたくてもあげられない状況であるとか、赤ちゃんを預ける必要があるとか、さまざまな理由で直接授乳ができないことがあると思います。そういうときは安心して母乳実感哺乳びんを使っていただいて、少しの間でも息抜きしていただきたいですね。これからも哺乳びんを通して、赤ちゃんもお母さんもお父さんも、みんなが笑顔になれるようなサポートできればいいなと思っています。
太田:ピジョンの哺乳びんは、当たり前の安全性をちゃんとクリアしつつ、使いやすさも機能性も最高のものを提供しているので、安心してお使いくださいとお伝えしたいですね。そして、ボトルに描かれた柄のかわいさを見ながら、ほっこりしていただければと思います。
長い歳月をかけて研究開発を重ね、お母さんの乳首のやわらかさにまた一歩近づいた、3代目母乳実感。乳首のやわらかさや形状で、母乳育児をサポートすること。そして、びんの内側にも外側にも行き届いた安全性など、安心して授乳していただけますよう願ってつくられています。
ピジョン株式会社 開発本部
設計開発部 設計開発グループ
(取材当時)
(右)小山 聡さん
(左)太田 貴則さん