妊娠・出産で骨盤がゆるむって本当?産後の骨盤はどうやってケアをしたらいい?【助産師が解説】
- 出産ってせまい骨盤を赤ちゃんが通ってくるんだから、本当にすごいことよね。だけどそれによって、産後は骨盤がゆるんでいるらしいわよ。骨盤がゆるむと全身にも影響しそうだけど、ちゃんと元に戻るのかしら…。みんなも心配よね。
そこで、「産後はどうして骨盤がゆるむの?」「骨盤を元に戻す方法はあるの?」「骨盤ケアをするとどんないいことがある?」などなど、骨盤にまつわる疑問・気がかりについて、助産師で杏林大学准教授である加藤千晶先生に教えてもらったわよ!
骨盤は出産をするとどう変化するの?
妊娠するとリラキシンというホルモンが分泌され、骨盤の関節や靭帯をゆるめて、出産時に産道が広がりやすいよう準備を始めます。リラキシンの分泌は産後には止まりますが、赤ちゃんが通るために広がった骨盤や、ゆるんだ関節、伸びた靭帯はしばらく不安定な状態です。
産後はオキシトシンというホルモンの作用で、子宮や骨盤周辺の回復を促しますが、妊娠前のように安定するまでには産後数ヵ月〜半年ほどかかることが多いです。
骨盤は、上半身と下半身をつなげる土台として全身を支えています。立つ、歩く、座るなど日常のさまざまな動作をサポートし、内臓や生殖器を守る大切な役割も持っています。
出産後の生活と骨盤への影響
出産後約6〜8週間までは産褥期といい、妊娠・出産で大きく変化した体を元に戻す期間です。体を休めながら過ごすことが大切ですが、産後はすぐに赤ちゃんのお世話が始まります。それが昼夜関係なく続くので、生活リズムが激変。なかなかゆっくりは眠れず、ホルモンバランスも変化するので、無理をすると心身ともにダメージが出やすくなります。
また、初めての育児は慣れないことが多く、緊張で体に力が入ってしまうこともあるでしょう。それによって、よい姿勢(ラクな姿勢)で授乳できなかったり、姿勢が悪い状態で長時間の抱っこが続いたりすると骨盤にも影響します。骨盤が安定しないままだと、全身のバランスが崩れ腰痛や恥骨痛に悩む人も。また、骨盤が広がったまま安定しないと、尿もれを経験する人もいるでしょう。
お世話をするときは、体に負担のない正しくラクな姿勢を意識することも大切です。あせらなくていいので、ゆっくりと赤ちゃんとの新生活に慣れていきましょう。
骨盤ケアはいつから始めるの?どうケアすればいい?帝王切開の場合のワンポイントアドバイスも!
骨盤ケアは、出産直後から意識することが大切です。産後は、骨盤をベルトでサポートしてから動き出すとよいと言われていて、出産直後(分娩台の上)に骨盤ベルトを装着する施設もあります。産後はバタバタと育児が始まるので、妊娠中から用意しておくと安心ですね。
骨盤ベルトを選ぶポイントや注意事項、それ以外にも、育児をしながら骨盤の回復をスムーズにする工夫や、帝王切開の場合のアドバイスなどを、この後ご紹介します。
・骨盤ケアのポイント1:骨盤ベルトを使用する
骨盤ベルトは、骨盤の回復機能を早めるのに役立ちます。また、骨盤の広がりを予防し、骨盤を正しい位置に固定する役割も。そのため、妊娠中から腰痛の予防などにも骨盤ベルトは使用できます。骨盤ベルトはいろいろな種類がありますが、妊娠・出産期間は、妊娠中から産後まで使えるタイプや、産後に特化した専用の骨盤矯正ベルトを選ぶことが大切です。帝王切開の傷に配慮した、帝王切開でも使えるタイプもあります。
骨盤ベルトを装着するときは、商品の説明書や推奨時期、使用期間などを確認して、指示に従います。正しく装着できないと効果が得られないだけでなく、血行やリンパの流れを悪くし、むくみなどを悪化させる原因にも。また、早く効果を出したいからと強めにベルトを締めるのもNGです。骨盤ベルトをつけていても、日常生活行動に支障がない方法で着用しましょう。そのために必ず、製品の着用方法を守って使用しましょう。
・骨盤ケアのポイント2:授乳や抱っこは正しい姿勢を意識する
無理な姿勢や前かがみの授乳は赤ちゃんが飲みにくく、腰痛や骨盤痛、下半身の血流を悪化させる可能性も。授乳するときは肩の力を抜いて背筋を伸ばし、左右や前後に姿勢が傾かないよう意識しましょう。
赤ちゃんを抱き上げるときに、立ったままの姿勢で行うと背中や腰を痛めやすくなります。できるだけ赤ちゃんに体を近づけて、密着させてから立ち上がるようにしましょう。寝かしつけや泣き止ませで抱っこが長引くときは反り腰になったり、左右どちらかに姿勢が偏ったりしやすくなります。おなかに少し力を入れて反り腰を予防し、体の重心が真ん中になるようにしましょう。長時間の抱っこには、抱っこひもを活用するのもおすすめです。
・骨盤ケアのポイント3:同じ姿勢を続けない
授乳、おむつ替え、寝かしつけ、沐浴……と、産後は赤ちゃん中心の生活に。とくに生後1~2ヵ月ぐらいまでは、赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ飲ませる自律授乳が基本なので回数も多く、気づくと同じ姿勢で授乳を続けていた、ということも起こり得ます。座ったまま、立ったままなど、同じ姿勢が続くと筋肉が硬くなり、姿勢が崩れてバランスの悪い体勢を取りがちです。同じ姿勢が続かないよう、意識して姿勢も変えましょう。育児の合間などに肩や背中、腰をストレッチするのも◎。
・骨盤ケアのポイント4:骨盤まわりのストレッチ
産褥体操や骨盤まわりのストレッチや運動を取り入れるのもいいでしょう。妊娠・出産でゆるんだ骨盤周辺の筋肉を軽く動かしたり、凝り固まった筋肉をほぐしたりしながら骨盤回復を促します。体調を優先しながら、無理のない範囲で行うことが大切です。
骨盤を下から支えている骨盤底筋を鍛える体操は、寝ながら、立ったまま、座ったままでもできるので、育児の合間などに取り入れやすいと思います。腟や肛門の筋肉をきゅっと締めたりゆるめたりする動作(尿をするときに途中で止めてみたりする)を繰り返すことで骨盤底筋が鍛えられ、尿もれの改善や予防にもつながります。運動が苦手な人でも取り入れやすい簡単な運動ですので、毎日コツコツ続けるといいでしょう。
・骨盤ケアのポイント5:帝王切開の場合の骨盤ケア
術後しばらくは、傷の痛みをカバーするような前傾姿勢になりがちです。不自然な姿勢や偏った姿勢が続くと骨盤にも影響しますから、なるべく正しい姿勢でお世話に慣れていきましょう。
帝王切開の傷の痛みは産後1ヵ月ほどで治ってきますが、痛みの具合や感じ方には個人差があります。ストレッチなどは無理のない範囲で行い、下着や骨盤ベルトは傷に響かないタイプのものを選ぶといいですね。骨盤ベルトを巻くときは、創部に当たらないよう注意を。帝王切開で分娩した場合も骨盤自体は広がっていますから、傷の負担や体調面を優先しながら、骨盤周辺の回復を促しましょう。
産後の骨盤ケアをすると、どんないいことがあるの?
産後は関節や靭帯がゆるんで骨盤が不安定ではありますが、安定するまでの期間に骨盤を正しい位置に戻すチャンスともいえます。骨盤ケアなどを通して骨盤が正しい位置に戻ると、腰痛や恥骨痛などの痛みの改善や、尿もれなどのトラブルを予防できます。
骨盤が安定すれば全身のバランスも整いやすく、きれいな姿勢をキープしやすくなるでしょう。血流がよくなることで老廃物も流れやすく、むくみ予防にも役立ちます。また、骨盤内の臓器が正しい位置に戻ることで、体型・体重戻しがスムーズに進むことも期待できるでしょう。
まとめ
妊娠・出産は、女性の体にとても大きな変化をもたらします。その変化がすべて、妊娠前の状態に戻ることはとても努力がいることだと思いますが、妊娠前よりもバランスのよい体にすることも不可能ではありません。その一つが骨盤ケアだと言えます。
人体の中で一番大きな骨の塊が骨盤です。お産後の女性の生活をより快適に過ごすことを目指して、生活を組み立ててみましょう。
教えてくれたのはこの方
- 加藤千晶 先生杏林大学保健学部看護学科 准教授
助産師として約10年大学病院に勤務。その後、看護・助産教育に約15年携わり、産科病院にて看護部長を経験。現在、杏林大学保健学部看護学科准教授として、助産師教育に携わっている。