<たまひよpresents産前産後のフェムケア vol.3 産婦人科医監修編>産婦人科医が教える“フェムケア”。産後の生理や2人目妊活を知ろう
近年、日本で急速な広がりを見せる「フェムテック」とは、女性の健康課題をサポートするさまざまな製品・サービスのこと。産前産後のフェムケア企画第3弾では、たまごクラブひよこクラブ統括編集長の米谷明子が、産婦人科医で4児の母でもある稲葉可奈子先生に、医師の立場から見たフェムテック事情や、産後の生理、2人目妊活について聞きました。
Inaba Kanako関東中央病院産婦人科医長。京都大学医学部卒業。東京大学大学院博士課程修了。東京大学医学部付属病院などを経て、2015年より現職。一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム副理事長、みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト代表などを務める。子宮頸がん予防や性教育、フェムテックなど、エビデンスに基づいた情報をSNSやメディアなどで発信している。4児の母。
フェムゾーンの“洗いすぎ”には要注意!
米谷産婦人科医である稲葉先生は、一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアムの副理事長も務めていますが、どんな活動をしているのでしょうか?また、昨今のフェムテックの広まりについて、どのように見ていますか?
稲葉フェムテックが広く浸透したここ数年の間に、多くの企業から新しい製品やサービスが誕生しました。女性の体にここまでスポットが当たるのは恐らく日本史上初のことですし、フェムテックがきっかけで女性たちが自分の体により関心を持つようになったことは、素晴らしいと思っています。
その中で、医師である私たちは、フェムテック製品を安心して使えるように医学的な観点から適切な評価を行い、製品やサービスが正しく普及されるサポートをしたいと考えています。
製品やサービスが正しく普及されることは、とても大切ですよね。また、フェムケアと呼ばれる、腟周りなどのいわゆるフェムゾーンのケアについてさまざまな情報が出てきているので、誤ったセルフケアをしてしまうこともあると思います。フェムケアについて気をつけてほしいことはありますか?
稲葉気をつけてほしいと思うのは、“フェムゾーンの洗いすぎ”ですね。フェムゾーンは人と自分を比べることがほぼないですし、そもそも人に相談しづらい部分なので、においや皮膚の状態、色などの正解がわからず、不安だけが増してしまいがちです。一度気になりだすとどんどん気になって、洗いすぎてしまうことも。清潔にするのは大事ですが、気にしすぎてゴシゴシ洗ってしまうのは逆効果なんです。
腟のまわりはもともと脂質で覆われていて、雑菌から腟を守るバリア機能をはたしています。それを必要以上に洗い流してしまうと雑菌の侵入を許すだけでなく、乾燥して肌が荒れたり、かぶれやすくなることも。また、腟の中には常在菌がいて腟内の環境を守ってくれているのですが、強い水圧のシャワーを直接腟に当てて常在菌まで流してしまうと、腟の中に悪玉菌が繁殖しやすくなってしまいます。
デリケートな部分なので、ゴシゴシ洗ったり、強い水圧のシャワーをあてるのはよくないんですね。では、どのようにケアするといいのでしょうか?
稲葉私は「サッと洗うだけでいいんですよ」とアドバイスしています。気にしすぎてゴシゴシ洗ったり、1日に何度も洗ったりするのではなく、1日1回入浴のタイミングで「普通に」やさしく洗えば十分です。
フェムゾーンのにおいが強くなったり、おりものの色や形状が普段と違う=不潔なわけではありません。異変を感じたら、産婦人科を受診することをおすすめします。
かゆみを感じたときは、外陰部用の市販薬を使ってもいいのでしょうか?
稲葉いいと思います。塗ってみて改善すればそれでOKですし、改善しなかった場合はカンジタ性腟炎などの可能性もあるので、医師の診断を受けてください。
米谷フェムゾーンのかゆみ、においの原因として、思いつく理由の一つが“おりもの”です。生理以上に個人差がありそうですし、なかなか人には聞きづらいものですが、そもそも“おりもの”とは何ですか?
稲葉人間の体には、汗を出す汗腺や、涙が出る涙腺のように、分泌液を出す分泌腺があり、そのうちの一つが腟内にあります。おりものは、そこから分泌されるもので、排卵の時期になるとホルモンの影響で量が増え、精子が子宮内に運ばれるのを手助けしたり、腟内をきれいに保つ作用があります。生理と同様、思春期を迎えて女性ホルモンが分泌されるようになると出始めて、閉経すると、なくなるわけではありませんが量は少なくなります。
基本的におりものの量は気にしなくていいのですが、多すぎてかゆみやにおいが気になる、生活する上で困るという場合は、医師に相談するといいでしょう。
下着を汚したくないので、おりものシートを使うという人も多いと思います。
稲葉おりものシートは手軽に使えていいと思います。ただ、おりものシートだとかぶれてしまう、取り替えるのが面倒という人には、吸水ショーツもおすすめです。おりものの性質にもよりますが、吸水ショーツは液体を受け止める機能に特化しているので、おりものが多い人や、多い日に向いていると思います。
また、クラミジア感染症は、不妊の原因の一つになりますし、おりものにいつもと違う症状が出ることがあります。気になるときは、やみくもに不安になったりせずに婦人科を受診しましょう。
産後の生理再開のタイミングは、個人差が大きいもの
米谷産後のママが気になることのひとつとして、生理の再開があります。早い遅いなどの個人差は、何か理由があるのでしょうか?
稲葉一般的に、母乳育児をしている間は生理がこないと言われていますが、中には、赤ちゃんに母乳をあげていても生理が早く再開する人がいます。こればかりは本当に個人差が大きく、予測できるものではありません。
ただ、忘れないでおいてもらいたいのは、産後の生理の再開がまだだからといって避妊せずに性交渉をすると、タイミングによっては排卵と重なり、予期せぬ妊娠をするケースがあるということです。前回の妊娠時に、とくに妊活などをしなかった場合は、排卵について正確に知らない可能性も。実際、妊活を考え始めて受診に来て、そこで初めて排卵について知る人もたくさんいます。排卵がいつかわからないということは、自分がいつ妊娠しやすいかを知らないということ。女性は閉経するまで、自分がいつ妊娠してもおかしくない体であることを知っておく必要があると思います。
産後いつ生理が戻るか予測できない、ということは、産後の最初の排卵がいつ起こるか分からない、ということですので、「産後、できるだけ早く次の子を妊娠したい」と夫婦ともに思っている場合を除き、生理が再開していなくても性交渉のときはきちんと避妊しておきましょう。また、ファミリープランを立てる上で、次の妊娠のタイミングやそれに伴う避妊期間について聞きたいことがあれば、産後1カ月健診などで、担当医に相談するといいと思います。
「今すぐ妊娠したい」と思っていない女性が性交渉をする場合は、閉経するまでは継続して避妊が必要ということですね。私は『妊活たまごクラブ』などを担当していて、普段は避妊と正反対の話をすることが多いのですが、最近の避妊方法にはどんなものがあるのでしょう?「避妊具というとコンドーム」という考え方はもう古い!?
稲葉たしかに、避妊というとコンドームを思い浮かべる人が多いですが、医師の観点からすると、コンドームの避妊効果は不十分です。正しく使えているかわからないですし、そもそもコンドームは男性が主体で、場合によっては女性が避妊の選択をできないこともありますよね。それが結果的に望まない妊娠につながったり、女性の体に負担をかけることになるので、やはり女性が主体的にできる避妊方法が望ましいです。
避妊効果がもっとも高いのは低用量ピルですが、子宮内に装着する“子宮内避妊具”もいいと思います。装着後5年ほど効果が継続するのですが、次の妊娠を望むタイミングで取りはずせば妊活することができます。
産後の性交渉の再開は、ママの体調とメンタルを考えて
米谷産後、性交渉はいつごろから再開してOKですか?
稲葉悪露が落ち着き、1カ月健診で医師からOKが出れば問題はありません。あとは、ママの体調とメンタル次第です。これはパパに知っていただきたいことですが、ママの肉体的には問題がなくても、やはりホルモンのバランスなどにより、性交渉する気分になれないことも。パパは寂しい気持ちがあるかもしれませんが、ママの気持ちを最優先にしてほしいです。
米谷次の妊娠を望んだ場合、その第一歩として、断乳や卒乳をするケースがあります。でも、生理がなかなか再開しない、再開しても周期が安定しなくて排卵日がわからないという人もいるようです。
稲葉生理が再開しない場合は、断乳・卒乳後3~4カ月を目安に産婦人科を受診して相談することをおすすめします
生理の周期が安定しない場合は、排卵誘発剤を使って性交渉のタイミングを取りやすくすることが可能です。その前の第一ステップとして、自宅で基礎体温を測ったり、生理周期の管理アプリを使ったり、排卵検査薬などを活用するのもいいでしょう。
最近では、妊活に適した時期かどうかをチェックできるおりものシートも登場しました。自分の排卵の時期を知るきっかけになったり、あまり気負わずに妊活を始めることができそうですよね。
稲葉そうですね。「気負わずに」という意味では、そういったものも妊活の入り口としていいのかもしれません。妊活において、基礎体温の計測や排卵検査薬の使用は有効です。ただし、その結果に一喜一憂したり、ストレスになるのは、逆効果です。もし不安な気持ちが大きくなるようなら一人で抱え込まず、パパと協力して、早めに受診することをおすすめします。妊活のために受診することをためらう人もいますが、受診を先延ばしにすればするほど、自身も年齢を重ね、年齢が上がるほど妊活もスムーズに進みにくくなってしまいます。排卵検査薬などを活用しながら妊活をトライしつつ、なかなか妊娠しない時はあまり先延ばしにせずに医師に相談しましょう。
米谷最後に、ママ・パパにメッセージをお願いします。
稲葉フェムテックの普及とともに、さまざまな製品が誕生し、フェムケアについても情報が広がっています。フェムテック製品を使ったり、フェムケアをしたりすることでフェムゾーンの不快感を減らせるのであれば、取り入れていいと思います。ただ、その一方で本来なら治療や医療介入が必要なケースでも「セルフケアをしているから大丈夫」と見過ごしてしまうリスクも。情報過多といわれるこの時代、自分の健康を守るために、信頼のおける正しい情報を選び取る力が必要だと思います。不安な気持ちが大きいときや体の異変を感じたときは、セルフケアばかりに頼らず、受診して医師に相談してくださいね。
また、ママの体の状態をパパにも知ってもらうことが大事です。ママが体調に不安を感じたら、一人で抱え込まず、パパに相談するといいでしょう。パパは、ママに体調について相談されたら、必要に応じて受診をすすめてください。ママは「『病院に行け』だなんて冷たい」と思う必要はありません。医療の介入が必要なことも多いので、愛情のこもった適切なアドバイスです。受診するママの不安が大きければ、ぜひパパも病院に付き添ってほしいと思います。
【米谷の対談後記】
産後はどうしても自分の体のケアは後回しになりがちですよね。稲葉先生は、双子を含む4人のお子さまのママでもあり、医師のお仕事との両立、さぞ大変だったのでは?と伺ったところ、もちろん大変ではあるけれど、婦人科の知識があるからこそ自然に体のケアができていた…とのこと。お話を伺って、おりもののこと、産後の避妊のこと、知らないで情報に振り回されるのと、知識を持って便利なグッズやサービスを主体的に活用するのは大違いだと思いました。
Yoneya Akiko
『たまごクラブ』『ひよこクラブ』統括編集長、『妊活たまごクラブ』編集長妊娠・育児系の出版社を経て、2007年ベネッセコーポレーション入社。たまひよ雑誌ディレクターを務めつつ、2013年『妊活たまごクラブ』を創刊、編集長。2022年たまひよ新創刊をリードし、2023年現職。近年はフェムテックイベントに登壇も。「フェムテックブームでようやく女性たちが生理や自分の体について語れる時代になりましたが、実はまだまだ人には言えない、自分の経験値だけで我慢をしていることが女性にはある…!?妊娠・育児期こそフェムケアの知識をアップデートすべきタイミングです!」