妊娠中にやっていいことダメなことを産婦人科医が解説!~日常生活編~
妊娠中は重いものをもつのはダメなどと聞いて、ほかにもやっていいこととダメなことがあるのか気になったり、線引きが分からなくて迷ったりすることはないでしょうか。今回は日常生活において妊婦さんが迷いやすいことについて、やっていいこととダメなことをお伝えします。
教えてくれたのはこの方
- 天神尚子さん産婦人科 | 三鷹レディースクリニック院長
日本医科大学産婦人科入局後、派遣病院を経て、米国ローレンスリバモア国立研究所留学。その後、日本医科大学付属病院講師となり、1995年5月から三楽病院勤務。日本医科大学付属病院客員講師、三楽病院産婦人科科長を務めた後、退職。2004年2月2日より、三鷹レディースクリニックを開業。
妊娠中にやっていいこと
妊婦さんからこれをしても大丈夫かとよく相談があることや、みなさんがどこまでならいいのかなど迷いやすいことについてをお伝えします。ただし、やっていいことも妊娠中は妊娠前のからだとは大きな変化があり、敏感になっている、疲れやすいなどの違いがあることを理解しておこなうようにしましょう。
・料理などの家事
基本的には普段どおりの家事はできます。ただし、長時間立ちっぱなしになるような家事や、重いものをもつことは避けましょう。中腰になったり、おなかに負担がかかったりするような姿勢になるのもNGです。また、おなかが張る、体調がよくないと感じるときは休むようにしましょう。
・仕事
座り仕事であれば基本的に問題はないですが、職場の上司には妊娠を伝え、疲れを感じたら休憩をとる、長時間労働を避けるなど配慮してもらうとよいですね。立ち仕事の場合も、長時間でなく、疲れを感じたら座って休むなど、妊婦さんが無理なく働けるのであればよいでしょう。もし疲れやすいようであれば相談して配置転換をしてもらうと安心です。また、夜勤、頻繁な出張、長期出張は、夜勤中や出張先で出血などなにかあったときのためにできればやめておいた方がよいでしょう。相談しにくいときは母子健康手帳にある「母性健康管理指導連絡カード」を活用してみてください。かかりつけ医師からの指導事項を事業主に伝えることができます。
・1日1〜2杯のコーヒーや紅茶を飲むこと
カフェインには神経を興奮させる作用があり、血液によって胎盤にも運ばれるため、厚生労働省より妊婦さんは1日に200mg程度におさえるよう推奨されています。そのため、コーヒーなら1〜2杯程度、紅茶なら3杯程度までなら飲むことができます。最近はカフェインレスコーヒーもたくさんあるので、妊娠中はそういったものに代えるのもよいですね。
参照)
厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取についてQ&A 〜カフェインの過剰摂取に注意しましょう〜」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000170477.html
・美容院でのパーマやヘアカラー
パーマ液やヘアカラーなどには皮膚から吸収される化学物質は少量であり、赤ちゃんへの影響はほとんど問題ないと考えます。妊娠の経過に問題がなく、当日の体調がよければ美容院でパーマやカラーをすることはできます。ただし、妊娠中は皮膚が敏感になるので液体が肌についたときにかぶれる場合もあります。また、長時間の施術はおなかに負担がかかるため、パーマとカラーは別の日に分けるなどの工夫が必要です。美容院には妊娠中であることを伝えておくと、時間や姿勢など配慮してもらえて安心ですね。
・ネイル
ネイルの成分などが胎児に影響を及ぼすことはないので、気分転換のためにネイルを楽しむのもよいでしょう。ただし、妊娠中はにおいなどによって気分が悪くなる場合もあります。ネイルをしている間は窓を開けるなどして、部屋の換気をおこなうようにしましょう。また、入院時期や臨月が近づいたら控える必要があります。緊急帝王切開などになったとき、爪の色を観察して貧血のチェックをしたり、手術前に指先に機器をとりつけて血中酸素濃度を調べたりするためです。妊娠中は緊急手術も起こりうるので、臨月近くになったら気をつけましょう。
・サプリメントの摂取
栄養はできるだけ食事からバランスよく摂ることが望ましいですが、なかにはサプリメントの摂取で補ったほうがいい栄養素もあります。代表的なものがビタミンB群のひとつである葉酸です。加熱に弱い、体内にあまり蓄積されないことなどから、食事から適正量が摂取できない場合は、厚生労働省より、普段の食事に加えて栄養補助食品の利用が推奨されています。サプリメントは栄養補助食品から選ぶとよいでしょう。葉酸以外のサプリメントについては、食事から摂りづらい栄養素がある場合などに検討してみましょう。医師や管理栄養士などに相談をしてみてもよいですね。
・温泉
自宅のお風呂の時間と同じぐらいであれば、妊婦さんが温泉に入っても問題ありません。ただし妊娠中は皮膚が敏感になりやすいため、硫黄泉、塩化物泉などの刺激の強い温泉は避けるようにしましょう。また42℃以上など高温に長くつかることも、血圧の上昇を引き上げる恐れがあるのでやめましょう。適度な温泉入浴で、リラックスした時間を過ごしてください。
・妊娠中の性生活
基本的には、妊娠の経過に問題がなく、かかりつけの医師から性行為を控えるようにと言われていたり、安静を指示されていたりしなければ問題ありません。おなかに負担がかからないように気をつけてください。ただし、流産しやすい妊娠初期と破水のリスクがある臨月や、おなかが張っているとき、出血があるとき、逆子と診断されている場合などは控えたほうがよいでしょう。聞きづらいかもしれませんが、気になることがある場合は医師に相談するようにしましょう。
妊娠中にやってはいけないこと(控えてほしいこと)
妊娠中にやってはいけないことや控えてほしいことはいろいろありますが、代表的なものを以下にお伝えします。
・人混みへいくこと
妊婦さんが感染症にかかるとおなかの赤ちゃんになんらかの影響がでることがあります。そのため、人混みはできるだけ避けるようにしましょう。仕事などやむを得ず行く場合もあると思いますが、その際はマスクの着用、うがい手洗いなどをして感染予防を心がけてください。
・自己判断で薬を服用したり中止したりすること
妊娠中は薬の影響を受けやすく、副作用も現れやすくなります。胎児に影響があることもあるので、風邪をひいたからと自己判断で薬を服用するのはやめましょう。また、持病などで妊娠前から薬を服用している場合、妊娠が判明したからと自己判断で服用を中止するのではなく、医師に妊娠を伝えて相談するようにしましょう。
・激しい運動をすること
筋力トレーニングや短距離走などの激しい運動は、心拍数が上がりやすくなり、酸素の供給が追いつかなくなることがあります。胎児にも十分な酸素が行き届かなくなるため、激しい運動はおこなわないようにしましょう。テニスなどの他人と競うスポーツも白熱しやすいため避けるようにしてください。
・重いものをもつような買い物、中腰などが続くような掃除をすること
家事の中でも、買い物で重いものをもつことは、腹圧がかかっておなかが張るなどのリスクがあるため避ける必要があります。また、中腰や前かがみの姿勢が続くような掃除もおなかに負担がかかってしまいます。できるだけ家族が一緒のときに重いものを買う、掃除の協力をお願いするようにしましょう。出産後は育児があるので、ますます家事の分担や協力が必要に。妊娠中から協力体制ができていると出産後もスムーズですね。
・喫煙すること
妊婦さんがたばこを吸うと、たばこの成分は胎児に運ばれて、低出生時体重児が生まれる、乳児突然死症候群がおこるなどのリスクが生じます。そのため妊娠したら赤ちゃんのためにたばこは絶対にやめるようにしましょう。なお、妊婦さんだけでなく家族が吸うと受動喫煙となり同じことに。家族全員で禁煙することが大切です。
・お酒を飲むこと
妊婦さんがお酒を飲むと、アルコールが胎盤を通じておなかの赤ちゃんに伝わります。アルコールは赤ちゃんに、成長を遅らせるなどのさまざまな悪影響をおよぼす可能性があります。そのため、妊娠がわかったら禁酒するようにしましょう。
最後に
妊娠中にやっていいこととやってはいけないことをお伝えしましたが、これらはあくまでも一般的なお話で、週数や経過とともにやっていいかどうか、またその程度が変わる場合があります。必要に応じて担当の医師に確認しましょう。また、日常の中で「これはやってもいいのかな」と疑問に感じることがほかにもでてきたら、妊婦健診時にどんどん確認してスッキリさせるとよいですね。
さまざまな制限に、妊婦さんはストレスを感じることがあるかもしれません。できるだけストレスを溜めないように、軽い運動をする、映画をみる、お友だちとおしゃべりするなど、気分転換になるようなことを心がけるようにしましょう。みなさんが安心して健やかな妊娠生活を送れるよう願っています。