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産前産後ケアセンター【ヴィタリテハウス】で聞いた!
知っておきたい“産後ケア”のこと

笑顔の鶴野さんと濱脇さん

赤ちゃんに会えるのは楽しみな反面、初めての出産では、不安や心配もあるでしょう。そんなときに大きな支えとなるのが、産前・産後ケアです。近年は自治体による産前・産後サポートも充実してきましたが、「近くに手伝ってくれる親や親せきがいない人のためのもの」「きょうだいが多い人や産後の体力の消耗が激しい人が利用するもの」と考える人は少なくありません。
また、初めての妊婦さんにとっては、産後の生活がイメージしにくく、ケアの必要性を感じにくいのも事実。そこで、産前から産後12ヵ月までのママが利用できる産前産後ケアセンター【ヴィタリテハウス】の代表・鶴野ゆかさんと、施設長・濵脇文子さんに、産後ケアの大切さについてお聞きしました。


プロフィール

鶴野さんと濱脇さん
(写真左)
産前産後ケアセンター ヴィタリテハウス代表取締役
鶴野ゆかさん

NY市立大学卒業後、広告代理店に勤務するなど8年間のニューヨーク生活を過ごす。帰国後、「ユカ・ツルノ・ギャラリー」を設立し、ギャラリストとして国際的に活動。2023年4月に産前産後ケアセンター【ヴィタリテハウス】を設立し、出産・育児の専門家とともにママの心・体・美・健康を総合的にサポートする産前産後ケア事業を展開している。

(写真右)
産前産後センター ヴィタリテハウス施設長
大阪大学大学院医学系研究科招聘准教授
濵脇文子さん

母親の産む力、子どもの生まれる力、命の温かさに感銘を受け、助産師の道へ。助産師外来からお産、乳房外来、地域での訪問まで幅広く従事し、延べ数千人の母子と家族のケアを行う。
NPO法人ちいきのなかま 副理事長 。


産前産後センター ヴィタリテハウス産前産後センター ヴィタリテハウス
JR・東急武蔵小杉駅から徒歩7分。複合コミュニティKOSUGIiHUG内にある産前産後ケアセンター。

HP: https://vitalitehouse.com/

赤ちゃんとの生活を支える
産前・産後ケアって?

話す鶴野さん代表の鶴野ゆかさん。ご自身の分娩のときは、わが子に会える嬉しさから涙が出たそう。そんな幸せな出産の経験が、ヴィタリテハウス設立につながりました。

産前・産後サポートには、大きく分けて以下のサービスがあります。ヴィタリテハウスは妊娠期からケアを受けられる産前・産後ケアセンターとして、ママと赤ちゃんのサポートをしています。

産後ケアセンター

産前や産後に必要なケアを受けながら赤ちゃんと過ごすことができる施設。看護師や助産師などの専門家が24時間体制でバックアップしてくれる。宿泊とデイケアとがある。近年は産前ケアを行う施設も増えている。


産後ドゥーラ

産前産後の女性を支え、家事や育児を担う専門家「産後ドゥーラ」が自宅を訪問し、妊娠中から産後1年半までのママと家族をサポートしてくれる。


家事代行

訪問スタッフが、料理、洗濯、掃除、買い物など自宅の家事を代行してくれる。


鶴野さん

「ヴィタリテ(Vitalité)」とはフランス語で「生命の力」を意味します。私はやっと授かった赤ちゃんを42才で出産したのですが、出産も育児のスタートも本当に嬉しくて、「こんなに素晴らしい世界があったんだ」と、驚きでいっぱいでした。そんな自分自身の幸せな出産経験もあって、赤ちゃんとママ、そしてご家族が幸せに新しい生活をスタートできるようにサポートしたいという思いから、ヴィタリテハウスを創設しました。産前のママにおいては、出産の不安を和らげて幸せな出産ができるようにサポートを行っています。

現代の女性にこそ受けてもらいたい!
産後ケアが必要な4つの理由

抱っこされた赤ちゃん

産後ケアが必要な理由は、一般社団法人産前産後ケア推進協会によると、以下のことが挙げられます。

・高齢出産などママになる女性の多様化で、産後の回復に時間を要する人が増えているため。

・両親の高齢化や遠隔地に住んでいるなど、家族などからの支援不足のため。

・妊娠中に大きくなった子宮が収縮し、妊娠前の状態に戻るには6〜8週間かかるため。

・出産の疲労が残る中、赤ちゃん中心の生活リズムで睡眠不足になるなど、知らないうちに疲れがたまるため。

・出産から数日間はホルモンが激減し、涙もろくなったりイライラしたりするなど、気持ちの揺れが激しくなることがあるため。


一般社団法人産前産後ケア推進協会”産後ケアはなぜ必要?”
https://a-apcp.org/why/(参照 2024-1-23).


さらに、鶴野さんと濵脇さんが産後ケアの必要性について詳しく教えてくれました。

【産後ケアが必要な理由①】
ママ自身がケアされることは、これから続く子育ての土台をつくるから

鶴野さん

ママにとっての産後すぐの時期というのは、生まれた赤ちゃんにとっては、人生の心理的健康を決定しうるといわれる「愛着」を形成するうえで、最も重要な時期です。この大事な時期に産後ケアによってママの心と体を癒すことは、親子の愛着形成と家族の自立を促すうえでも、大きな意味があります。

濵脇さん

ママ自身がケアされるということが、本当に大切ですよね。子どもが育っていくためにはたくさんの手と眼差しが必要ですが、ママが育っていくうえでも、それ以上にたくさんのサポートが必要だと感じます。大切にされる経験を積んだ人は、周りの人のことも、そして自分のことも大切にできますからね。そういった、人の心の根っこの部分を、産後ケアを通して育んでいただきたいと思っています。

【産後ケアが必要な理由②】
周りに子育てを教えてくれる人がいないから

濵脇さん

その昔、子育てや出産は家族機能の中にありました。しかし、都市化が進み、家族の形態やコミュニティが変化していく中で取り残されてしまい、いつしか“孤育て”という言葉も生まれました。昔の大家族では赤ちゃんがいつも生活の中にいて、身近な存在でした。きょうだいに赤ちゃんがいたり、きょうだいの赤ちゃんがいたり……。自分が子育てをするときには、両親だけでなくおじいちゃんやおばあちゃん、おじやおばなど経験者が周りにいて、「赤ちゃんってこういうものなのよ。大丈夫、大丈夫」と教えてくれながら、赤ちゃんのお世話や赤ちゃんとの向き合い方を自然に学習することができていたんです。ところが現代では核家族になり、少子化が進む中で、「初めて関わる赤ちゃんがわが子」という状況がめずらしくなくなっています。だからママやパパは、どうしていいかわからない。昔の家族が果たしていた機能をどこかで補わなければならないわけですが、産後ケアセンターは、その役割を担っていると感じています。

【産後ケアが必要な理由③】
いろいろなパーソナリティに触れることは、子どもの財産になるから

濵脇さん

アフリカのことわざで、「子どもが一人育つためには一つの村が必要だ(It takes a village to raise a child.)」という言葉があるのですが、なぜかと言えば、世の中には、自分の親だけではなくていろいろ人がいるとか、こういう考え方をする人もいるとか、こういう仕事をする人もいるとか……多種多様な人たちと関わるということに大きな価値がある体と思うんです。子どもがいろいろなパーソナリティに触れるということは、子どもの発達や、「人」として育っていく過程においても財産になります。赤ちゃんのときにいろいろな人に抱っこしてもらったことは覚えていないかもしれないけれど、その経験は、必ず体に刻み込まれていくものだと思っています。

【産後ケアが必要な理由④】
ママやパパが「受援力」を身につけるため

濵脇さん

いろいろな人が関わるということは、赤ちゃんだけでなく、家族にとっても必要です。私たちは小さい頃から「人に迷惑をかけてはいけない」という教育を受けてきました。だから、「助けて」と言えないんです。人に助けを借りることは、相手に負担をかけたり、迷惑になることだという考えが染みついてしまっているんですね。でも、親になっていく過程では、必ず誰かの助けを借りることが必要になってきます。自分たちだけでは子育ては完結しません。だからこそ、産後ケアの中で、助けを求めたり助けを受けたりする「受援力」を身につけてもらいたいですね。
イスラム教では、人に助けを借りるっていうことは、相手に価値を与えることだと教えられます。インドの人は、迷惑をかけて人の情けで生きているのが人間であり、だからこそ相手の迷惑も許してあげなさいという考え方だそうです。産後ケアを通して、受援力と、ひいては助け合いの心が育まれていったら、こんなに嬉しいことはありません。

“もう1つの実家”
ヴィタリテハウスの産後ケア

ヴィタリテハウスのエントランス居心地のよい空間づくりをするためには人の心を豊かにし、生命力を与えてくれるアートの存在が不可欠だと考える鶴野さん。エントランスをはじめ、館内にはアーティスト・流麻二果さんの作品が飾られています。

2024年の4月でオープンから1年を迎えるヴィタリテハウス。たくさんのやさしくあたたかな眼差しが、入院したママと赤ちゃんに向けられています。

鶴野さん

ヴィタリテハウスの産後ケアでは、産後の健康チェック、お胸のケアや授乳指導、ママのカウンセリング、24時間体制での赤ちゃんのお預かり、赤ちゃんの身体測定とベビーケアなどを行なっています。産後すぐはご自身の体を休めることが最優先ですので、みなさん、授乳以外はお部屋でのんびり過ごしていらっしゃいますね。アロマオイルマッサージや整体・骨盤矯正、鍼灸、ボディワーク、ニューボーンフォトなどのオプションメニューがあり、ご利用される方も多いです。産前ケアでは、育児練習や沐浴指導などを受けていただけます。さらに、産後4ヵ月を過ぎたママと赤ちゃんもご利用いただけるというのが大きな特徴です。産後ケアは、まだ寝返りもしなければ離乳食も食べない4ヵ月頃まで行う施設が多いのですが、子育ては、そこからまたひと山ありますよね。産後ケア施設では職場復帰の4ヵ月から12ヵ月のサポートが抜けているので、その期間をしっかりと支える必要性を強く感じ、4ヵ月以降のサポートも開始しました。

リビングダイニング広々としたリビングダイニングでは、ママ同士が交流する姿も。

濵脇さん 

ここでは、働く人の誰もがママと赤ちゃんに目を向け、赤ちゃんが泣いていたら抱っこもします。調理担当も清掃担当も、「今日は機嫌がいいですね」などと、毎日声かけをさせていただいています。ママたちからは、「みんなが子どもをかわいがってくれて、嬉しかった」という言葉をいただくことが多いですね。以前、あるママから「今日はお掃除の○○さんはいらっしゃいますか」と声をかけられたことがありました。管理者として、思わず「何かありましたか?」と聞いてしまったのですが、「今日退院なので、一言お礼が言いたくて」と、そのママはおっしゃったんですね。ここのスタッフは、みんながみんな、本当に子どもを大切にしているんだなぁということを実感したエピソードでした。

鶴野さん 

最初はみなさん、少し緊張した面持ちでいらっしゃっても、退院されるときには笑顔でご自宅に帰って行かれる姿を見ると、私たちもほっとした気持ちになります。赤ちゃんを迎えて新しい生活がスタートする、ご家族にとってとても大切な時期に関われることを、心から嬉しく思います。ありがたいことにリピーターさんも多く、実家のような空間になっています。

スタンダードルーム一人でゆっくりとくつろげる、スタンダードルーム。

ファミリータイプのお部屋パパやきょうだいも一緒に宿泊できるファミリータイプのお部屋。

濵脇さん 

退院するときは「いってらっしゃい」、戻られたときには「おかえり」とお出迎えさせていただいています。実際に“武蔵小杉の実家”と呼ばれていて、以前、リピーターさんがご実家のご両親を連れて来てくださったことがあるのですが、「武蔵小杉の母です」と自己紹介させていただきました(笑)。ほかにも心に残っているのが、「“そのままで大丈夫!”と、認められた気がする」とおっしゃったママがいらっしゃったことです。とても嬉しかったのですね。これもヴィタリテハウスを象徴するエピソードだと感じています。


野菜中心のメニュー専属の管理栄養士が産後のママの体を考え考案した、近隣のファームで採れた新鮮野菜中心のメニュー。ホームメイドのおやつは米粉やオーガニック素材を使っていて、体にもやさしい。

これから命を産み、育てる
ママとパパへ

濵脇さんが話す様子

最後に、鶴野さんと濵脇さんから出産を控えたママとパパにメッセージをいただきました。

鶴野さん

自分の中に赤ちゃんがいる妊娠期ほど、特別な時期はないと思います。だからこそ、この特別な時間をポジティブに楽しんでいただきたいと思います。ヴィタリテハウスでは産前のステイもできますので、体調不良や家事が困難なとき、不安なときなどはいつでもいらしてくださいね。

濵脇さん

昔の日本は大家族でしたから、母親がひとりで子育てした歴史は、たかだかこの何十年。みなさん、トップランナーなんです。本当にすごいことをしているんです。だから、不安にもなるし、どうしていいかわからないって思うのは当然。誰かに頼ることは、決して甘えではありません。どうか安心して頼ってください。そして、慌てずに、ゆっくりお母さんになっていってください。


鶴野さんの感性と情熱、濵脇さんのパワフルなエネルギーに満ち溢れたヴィタリテハウス。おふたりにお会いして、英気を養ったママたちが、再びここへ羽を休めに訪れたくなる理由がわかりました。
「人が一人生まれることって、本当に尊いこと。私たちが思っている以上に、尊いことなんです。その尊い命を社会全体で育てていくことが大切だと感じています」とは、濵脇さんの言葉です。
“尊い命”をこれから大切に育んでいくためにも、もっと気軽に「助けて」と言っていい。ママ自身も大切にケアしてもらうのがいい。
産後ケアの必要性を改めて感じたインタビューでした。
撮影/安藤佐也加 取材・文/羽田朋美(Neem Tree)

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