妊娠中の食事は「カロリーより質」!適正に体重を増やすために望ましい食生活とは?
- 妊娠中期になってつわりが落ち着くと、今度は何を食べれば良いのか迷うわよね。体重コントロールも気になるところだけれど、最近はやせ妊婦さんが増えているの。おなかの赤ちゃんの発育のために、妊婦さんはしっかり食べて適正に体重を増やすことが大切なんだって。妊娠中期の食事について、相模女子大学栄養科学部教授の堤ちはるさんに聞いてみたわ。
現代女性の食生活は低カロリー傾向。
栄養不足に気を付けて
妊娠中の体重は母子の健康のバロメーターです。体重増加を気にする人もいますが、妊娠週数が進むにつれておなかの赤ちゃんは成長し、ママの体も出産と授乳に備えて脂肪を蓄えるようになります。さらに胎盤、羊水の重さなども加わりますから、体重が増えるのは自然なこと。どのくらい増えるのが適正なのかは、妊娠前の体格により異なりますので、まずは妊娠前のBMI※1から算出してみましょう。
赤ちゃんが成長するためには、妊娠前よりも食べる量を増やす必要があります。「妊娠期・授乳期の食事摂取基準」では、エネルギーは妊娠中期の場合で妊娠前より250kcal増、後期は450kcal増となり、たんぱく質量はそれぞれ5g増、25g増を目安としています。
妊娠期の食事摂取基準(抜粋)
*身体活動レベルⅡの場合。
*日本人の食事摂取基準(2020年版)より抜粋
※3 妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、通常の食品以外の食品に含まれる葉酸(狭義の葉酸)を400μg/日摂取することが望まれる。
実際の食品を例に挙げると、妊娠中期なら、1日につき豆腐1/2丁、トマト1/2個、りんご1/2個を追加するのが目安。後期ならこれに加え、おにぎり1個、牛乳コップ半分くらいを付加するとよいでしょう。ただしこれは、あくまでも妊娠前に2,000kcal程度を摂取していたことが前提です。
実はやせ思考の高まりから現代の成人女性の1日あたりのエネルギー摂取量は約1,900kcalと少なく、終戦翌年の1946年と同レベルという報告があります。妊娠前の食事量がそもそも摂取基準に足りていないという妊婦さんは多いのです。妊娠前の自分の食事量に付加しても、妊娠時に望ましい摂取基準に満たないケースがあるので、妊娠前の食事量を確認しておくと安心ですね。
やせ過ぎず太り過ぎずの
体重管理でママも赤ちゃんも健康に
ママの体重の増え方が少ないと、エネルギーや栄養素の不足から2,500g未満の低出生体重児出産や切迫流産、早産などのリスクが高くなります。低出生体重で生まれた赤ちゃんは将来的に生活習慣病になりやすいことが指摘されています。
一方で太り過ぎは前期破水、巨大児分娩、妊娠高血圧症候群などにつながるので、やみくもに食べればよいというわけではありません。ママと赤ちゃんの健康のためには、エネルギー(カロリー)だけでなく食事の内容を重視した食生活を意識することが大切です。
しっかり食べて適正に体重を増やす!
妊娠中期の食事のコツ4つ
1:いろいろな食材をまんべんなく食べる
栄養バランスの良い食事をとることが大切ですが、どの食材にどのような栄養素が含まれているのかを、一つひとつ調べながら献立を考えるのは大変です。難しく考えず、いろいろなものを偏りなく食べるようにすると、栄養バランスが整いやすいです。肉の主菜が多いのなら週に何度か魚を選ぶ、外食では、パスタやカレーなどの一品ものではなく、副菜がついた定食にするといった具合です。
手軽でおすすめなのは、野菜をたっぷり使った具だくさんの汁ものを作ること。具がたくさん入るとその分、汁の分量が減るため、摂取する塩分は多くなりません。ごぼうなどの根菜類やわかめなどの海藻類なども具として使えば、食物繊維もとれるので便秘解消に役立ちます。
2:不足しがちなビタミンDを積極的にとる
カルシウムの吸収を促す作用があるビタミンDは、ママと赤ちゃんの骨量にかかわる大切な栄養素です。必要量の約8割は日光に当たることによって皮膚で合成されますが、日常的に紫外線対策を行っているとビタミンDを皮膚で合成する機会が減ってしまいます。食材では魚、キノコ類、卵黄に含まれています。適度な日光浴と合わせて、それらの食品を摂取するように努めましょう。
3:リステリア食中毒のリスクのある食品を避ける
妊娠中は、おなかの中の赤ちゃんを異物として攻撃しないように免疫力が低下します。ウイルスや菌に弱くなっているので、健康な成人であれば食べても問題のないものでも、妊婦が口にすると食中毒を起こすことがあります。特に注意したいのが、リステリア菌(リステリア・モノサイトゲネス)です。発症すると、胎盤や赤ちゃんに感染し、流産や新生児に影響を及ぼすことがあります。
リステリア菌は一般的な食中毒菌と同様に加熱により死滅しますが、4℃以下の低温や12%食塩濃度下でも増殖するのが特徴です。生魚、生ハム、肉や魚のパテ、加熱殺菌していないナチュラルチーズ(カマンベールチーズなど)、スモークサーモンなどは避けたほうがよいでしょう。日本の食品衛生法の下で加工された食品はあまり心配ありませんが、念のため、食べる場合はしっかり加熱調理してください。
4:血糖値を急激に上げないように気をつける
妊娠中は胎盤から分泌されるホルモンの関係で、血糖値が上がりやすくなっています。そのため、もともと糖尿病ではない人も妊娠をきっかけに糖代謝異常を起こし、「妊娠糖尿病」になることがあります。妊娠糖尿病になると母子共にさまざまな合併症が起こるので、日ごろから血糖値を急激に上げないようにして予防することが大切です。
空腹の状態で、早食いや過食したりすると、血糖値は急上昇するので注意しましょう。精製されていない主食は糖質が少なく、食物繊維が多いので、玄米や雑穀米、全粒粉のパンなどを選ぶのもおすすめです。また食べるときは「ベジファースト(ベジタブル・ファースト)」で、食物繊維が豊富な野菜類、たんぱく質のおかず、炭水化物の順番で口にすると糖質がゆっくり吸収され、血糖値の急上昇を抑えられます。
まとめ
体重管理をする中で、体重が増えすぎないように注意することがあるかもしれません。しかし、「食欲」は抑えようとすればするほど、食べたい気持ちが高まってしまいがちです。そのようなときは散歩に出かけたり趣味を楽しんだりして、食欲から気持ちをそらすとよいですよ。せっかくのマタニティライフですから、ゆったりのんびり、心と体に無理なく過ごしてくださいね。
教えてくれたのは
- 堤ちはるさん相模女子大学 栄養科学部健康栄養学科 教授
日本女子大学家政学部食物学科卒業、同大学大学院家政学研究科修士課程修了。東京大学大学院医学系研究科保健学専門課程修士・博士課程修了。保健学博士、管理栄養士。青葉学園短期大学専任講師、米国コロンビア大学医学部留学。青葉学園短期大学助教授。日本子ども家庭総合研究所母子保健研究部栄養担当部長を経て、現職。専門は母子栄養学、保健栄養学。監修書籍に、食と栄養相談Q&A(改訂第2版)(診断と治療社、2022)、イラストBOOKたのしい保育 「食」をとおして育つもの・育てたいもの(ぎょうせい、2021)、あんしん、やさしい 最新妊娠・出産オールガイド(新星出版社、2021)など。