産婦人科医が教える!知っておきたい体と栄養の話

今の毎日をもっと元気に。そしていずれ授かる命のために。
知っておきたい
私たちの体と栄養の本当のこと
おなかの中にいる赤ちゃんは、そのママの栄養で育ちます。だからこそ、妊娠を希望する女性はしっかり栄養をとって健康でいることが大切。しかし近年、若い女性の「やせ」が深刻になり、やせた女性が妊娠、出産すると生まれてくる赤ちゃんにもリスクがある、と言われるようになりました。母体がやせていることにより、赤ちゃんにどんな影響があるのでしょうか?私たちはどのように自分の体を考え直せば良いのでしょうか?産婦人科医で福島県立医大特任教授の福岡秀興先生にお聞きしました。
日本人の体格が伸びなくなった理由とは?
福岡先生:日本人の体格は戦後から大きくなり、身長も体重も子どもは親世代よりひと回り大きくて当たり前、という時代がつづきました。日本人の体格が良くなったのは、栄養状況が改善したことが大きな理由です。しかし、近年はその伸びが鈍っていて、小学1年生や中学1年生の平均身長と体重は1990年頃からほとんど変わっていません。それに伴い、成人男女(30才代)の平均身長と体重も2000年頃から伸びが止まっています。
日本人の体格の伸びが止まった理由は、赤ちゃんが生まれたときの体格が小さくなっているから。つまり、出生体重が小さくなっているのです。日本は小さく生まれる赤ちゃんが増えていて、2500g未満で生まれる「低出生体重児」が2005年から現在まで全体の約1割を占めています。
なぜ赤ちゃんが小さく生まれてくるのか、その大きな要因のひとつが、やせている女性が多いことと言われています。赤ちゃんは母体から栄養を受け取るので、母体がやせていると、受け取れる栄養も少なくなるためです。
やせている女性は、栄養が不足しているために日々の不調を感じる人が多い
福岡先生:近年、BMI 18.5未満の「やせ」に該当する若い女性は非常に多く、20代では全体の20〜25%前後を推移しています。この高い割合は、「やせている女性が美しい」との思い込みによるやせ願望が根強く、ダイエットを行うことが大きく影響していることは確かです。しかし、「太りたくても太れない」と訴える女性も増えています。ストレスで食欲がなくなったり、スマートフォンやPCの普及で目や首が過度に疲れたり、睡眠の質が悪くなったり、心身の不調から「やせ」につながってしまう女性も多くなっています。
やせている女性は栄養が十分足りていなく、朝なかなか起き上がれなくなったり、疲れやすくなったりします。本来、人間が持っている機能が栄養不足により十分に働かないので、異常を感じるようになるんですね。体調不良に加え、卵巣の働きにも影響し、妊娠しづらい事もおこります。私の外来にやってくる患者さんも、なんとなく不調を感じる「不定愁訴」を訴える女性が増えています。
小さく生まれた赤ちゃんは、病気を発症しやすい体質を持って生まれてくる
福岡先生:「小さく生まれる赤ちゃんが増えている」と言うと、「小さく生んで大きく育てれば良いのでは?」とよく言われます。しかし、この「小さく生んで大きく育てる」という言葉は「小さく生むのが良い」という意味ではありません。
これは、もともと江戸時代から言われていて、小さい子を生んだお母さんを慰めるための言葉です。それが、妊娠中に太りすぎると妊娠高血圧症などの合併症になりやすいので、体重増加に気をつけて小さめに生むと良い、とまで誤解されて広まってしまいました。
確かに、妊娠中に極度に体重が増えると、合併症のリスクは上がります。しかし、栄養が不十分で体重が増加しないと、おなかの赤ちゃんも栄養が不足して、小さく生まれてしまいます。しかも、小さく生まれた赤ちゃんは、将来の健康へのリスクを背負っていることがわかってきました。
まず、糖尿病や高血圧など生活習慣病になりやすいのです。妊娠中に低栄養状態だと、赤ちゃんは「少ない栄養でも生きていける」体質になっているので、生まれた後に栄養を取り込みやすく、運動不足が加わると肥満になりやすいのです。そこから生活習慣病が起こってきます。
また、やせている女性自身にもリスクがあります。閉経が早い傾向にあり、閉経が早いと骨粗鬆症のリスクも高まります。妊娠した際には、赤ちゃんの出生体重が小さくなったり、早産を起こしやすいのです。
適切な栄養をとって、自分の能力を最大限に発揮しよう!
福岡先生:出産や赤ちゃんに与える影響については「まだ先のこと」と具体的に考えられない方も多いと思いますが、適切な栄養をとり、理想的な体重を維持することは将来の妊娠や出産だけではなく、今の自分の生活にとっても非常に大事なことです。痩せすぎ、太りすぎは共に望ましくないと思います。
栄養不足が原因で疲れやすくなったり、仕事に集中できなくなって、先ほどお伝えしたような不調を感じることが多くなります。自分の能力を最大限に活かして、元気に毎日を過ごせないのは、この人生においてもったいないことです。
また、やせは卵巣機能の低下も招きやすくなります。だからこそ、栄養をしっかりとることは将来の「妊活」において大事な一歩。妊娠を望む方はもちろん、まだ考えていない方も含め、日頃から少しだけ意識して栄養をとって、毎日を元気に過ごしてください。そして、自分の能力を仕事や生活の中で最大限に発揮しましょう!
福岡秀興(ふくおかひでおき)
1973年、東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部産婦人科学教室助手、香川医科大学講師、米国ワシントン大学医学部薬理学教室リサーチアソシエイト、ロックフェラー財団生殖生理学特別研究生、東京大学大学院医学系研究科(発達医科学)助教授、早稲田大学胎生期エピジェネティク制御研究所教授、早稲田大学総合研究機構研究院教授などを経て、現在、福島県立医科大学特任教授、千葉大学客員教授も務める。一般社団法人日本DOHaD学会理事長。
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