母乳には栄養素がたっぷり含まれているものの、生後6ヵ月を過ぎると鉄欠乏を生じやすいという報告があるそうです。母乳育児の場合、どうしたらいいのでしょうか。
相模女子大学栄養科学部教授の堤ちはる先生に、母乳育児での鉄不足解消方法を教えて頂きました。
●母乳に含まれる栄養素について
母乳にはからだの組織を作るタンパク質、エネルギー源となる炭水化物や脂質のほか、ビタミン、ミネラル、水分など、赤ちゃんに必要な栄養がバランスよく含まれています。
また初乳には赤ちゃんを病原菌の感染から守るための免疫物質も沢山含まれているのも大きな特徴。消化・吸収もよく、赤ちゃんが健やかに成長するのに母乳は重要な役割を担っているのです。
●母乳育児の場合、鉄が不足する?
先ほどお伝えしたように母乳にはよい点がたくさんあります。しかし、2019年3月に厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」にて、母乳育児の場合、生後6ヵ月の時点で、ヘモグロビン濃度が低くなり、鉄欠乏を生じやすいとの報告がありました。
ヘモグロビンは、体の中の各組織に酸素を運ぶ働きをする赤血球の中の物質です。
このヘモグロビンは、鉄を含むタンパク質です。そのため、鉄が不足すると、酸素が体に行き届かなくなり酸欠状態になってしまいます。そうすると疲れやすくなるほか、成長期の子どもであれば、心身の機能の成長・発達を妨げる恐れがあります。すなわち、鉄が欠乏すると、子どもの学習機能や運動機能にも影響を与えることが明らかになっています。
このようなことから、鉄は大変重要な栄養素のひとつであるといえます。そのため、母乳育児では6ヵ月頃から不足する鉄を補っていく必要があります。
●母乳育児を続けたまま、鉄不足を補う方法!
母乳育児の場合、先に述べたことから生後6ヵ月頃から鉄を補う必要があります。とはいえ難しく構えることはありません。方法はシンプルで、離乳食に鉄が含まれた食材をとりいれるだけ!具体的にみていきましょう。
【方法1】離乳食作りに鉄が豊富な育児用ミルクを活用する!
育児用ミルクには鉄が豊富に含まれているので、離乳食のメニューに育児用ミルクを活用すればかんたんに鉄不足を補うことができます。
たとえば、ちぎった食パンと育児用ミルクを鍋に入れて弱火で煮たら、鉄が含まれたミルクパンがゆのできあがり。赤ちゃんのお口の発達に応じてつぶしたりのばしたりするといいですね。
ほかにも、育児用ミルクを活用すると、さつまいものミルク煮、ミルクうどん、ミルクがゆ、クリームシチュー、グラタンなどいろいろなメニューが作れます。
(メニュー例:さつまいものミルク煮)
赤ちゃんもミルク味でほんのり甘く、食が進むかもしれませんし、鉄や栄養が豊富で、なによりかんたんに鉄補給ができるのが育児用ミルクを使うメリット。ぜひ離乳食作りに活用してみてはいかがでしょう。
なお、育児用ミルクをこれまで飲んだことがない母乳だけで育ってきた赤ちゃんに、育児用ミルクを使った離乳食を与える場合には、乳アレルギーの有無の確認のために、1さじずつから与え始めることが大切です。
育児用ミルクでなくても、牛乳を使えばいいのではないかしら、と思う方もいるかもしれません。牛乳を飲用するのは1才を過ぎてからですが、離乳食調理の素材としては、加熱すれば1才前でも使えます。しかし、牛乳には鉄がほとんど含まれていないので、鉄を補給するためには、育児用ミルクの利用がおすすめです。
【方法2】離乳食の進みや月齢などに応じ、赤身の肉、魚、レバー、大豆、卵などを離乳食に取り入れる!
赤身の肉や、まぐろやかつおなどの赤身魚、あさりなどの貝類などの動物性食品には、ヘム鉄という吸収率の高い鉄が含まれています。ほうれん草や小松菜などの植物性食品に含まれるのは非ヘム鉄で吸収率が動物性食品のヘム鉄より低くなります。鉄の吸収率は、ビタミンCと一緒に摂るとアップしますが、離乳食では1回に食べる量が少ないのでヘム鉄で鉄を補給するのが効果的です。
ほかにも、卵やきな粉、納豆、ごま、シーチキン、切り干し大根などにも鉄が含まれています。
なお、これらの食材の中でも、鉄がとても多く含まれているのがレバーです。
鶏レバーなら生後9ヵ月頃から食べることができます。 しかし、ビタミンAの過剰摂取にならないよう、鉄の補給はレバーだけに偏らないようにさまざまな食材から摂ることが大切です。
レバーは処理が面倒、あるいは調理が苦手と感じるのであれば、レバー入りの市販のベビーフードを活用する方法もあります。なお、ベビーフードのレバーは、ビタミンAの過剰症の心配のない量に調整されていますので、その点でも安心です。
市販のベビーフードなら、手軽に鉄を補給することができます。それらも上手に取り入れて、ママやパパにとって無理のない楽しい離乳食にしてくださいね。
今回は母乳育児において、生後6ヵ月頃から不足する鉄を補給する方法をお伝えしました。鉄は重要な栄養素なので、母乳育児の方はぜひ、離乳食作りに育児用ミルクを活用したり、鉄が多く含まれる食材をつかったメニューを作ったりしてはいかがでしょう。忙しい方や料理が苦手な方は、市販のベビーフードを活用すれば便利です。
なお、母乳は生後6ヵ月頃からビタミンDも、赤ちゃんの必要量を満たすには十分でない場合もでてきます。ビタミンDは、食べ物で摂取する以外にも、紫外線の下で生成されるため、外遊びで、適度に日光を浴びる時間をとるようにすると安心ですね。
母乳育児が、ママにとっても赤ちゃんにとってもかけがえのない時間になるよう心から願っています。
【プロフィール】
堤ちはる
相模女子大学 栄養科学部健康栄養学科 教授
日本女子大学家政学部食物学科卒業、同大学大学院家政学研究科修士課程修了。東京大学大学院医学系研究科保健学専門課程修士・博士課程修了。保健学博士、管理栄養士。青葉学園短期大学専任講師、助教授、日本子ども家庭総合研究所母子保健研究部栄養担当部長を経て、現職。専門は母子栄養学、保健栄養学。監修書籍に、「あんしん、やさしい最新離乳食オールガイド」(新星出版社、2019)、「食と栄養相談Q&A」(診断と治療社、2018)、「すききらいなんてだいきらい」(少年写真新聞社、2016)など。
<関連情報> 難しく考えないで、楽しく離乳食を始めましょう↓(監修:川口由美子先生)