母乳育児中は、生まれたばかりのときはもちろん、赤ちゃんの成長にともなって次々と悩みが生じるものですよね。そこで今回は、「みき母乳相談室」を開業し、国際ラクテーションコンサルタントとして母乳育児の支援活動をおこなう榎本助産師に、ママたちの疑問や悩みについて、アドバイスいただきました。
母乳育児のママたちのよくある疑問や悩み【Q&A】
Q1)体重があまり増えていないようなので、きちんと母乳を飲んでいるのか心配です。1ヵ月健診前に受診したほうがいいでしょうか?
赤ちゃんの体重は、生まれて1週間くらいまでは母乳を飲む量よりも体内に溜まった便や尿などを排出する量が多いため、生まれたときよりも体重が減少します。その後、だいたい1週間から2週間ぐらいかけて元の体重に戻っていくので、このことを頭に入れておきましょう。
また、母乳が飲めているか不安ということですが、赤ちゃんの体重が1日18~30gずつ増えていれば問題ないとされています。赤ちゃん用の体重計がなくても、ママが赤ちゃんを抱っこして体重を測って、そこからママの体重を引くことでおおよそになりますが、赤ちゃんの体重を測ることができますよ。
基準の体重増加より少ない場合は、育児用ミルクの補足量も検討するために、1ヵ月健診を待たずに助産師訪問や病院で相談してもよいかもしれません。
なお、赤ちゃん用の体重計が自宅にある場合は、授乳前と授乳後の赤ちゃんの体重を測ってみると、どのぐらい飲めているか予測できます。1回の母乳量の目安は、新生児なら20~40g、生後1ヵ月以降なら40~100gぐらいです。母乳メインの場合、新生児の時期は、1日に10~14回授乳するといわれていますのでこちらもひとつの目安にしましょう。
とはいえ、赤ちゃんの成長には個人差があるものです。その子なりのスピードで成長していくので、焦らず、母乳を「赤ちゃんが欲しがったときに欲しがるだけ飲ませる」を続けてください。
赤ちゃんが上手に飲めるようになってくると、体重増加も安定してきて、1ヵ月健診を過ぎた頃から生後2ヵ月ぐらいにかけて、ママの母乳の分泌も増えてきます。混合栄養の場合も、補足していた育児用ミルクを減らせていけるかもしれません。最初は赤ちゃんとママが慣れていくための母乳育児の練習期間と思っておくとよいですね。
Q2)出産したら母乳が出ると思っていたのに、なかなか思うように出ません。
出産直後は胎盤から出る母乳の分泌を抑えるホルモンの影響で、母乳分泌が少ないのが普通です。産後3~4日になると胎盤からのホルモンの影響がなくなってきて、今度はおっぱいを吸われる刺激で母乳分泌を促すホルモンが上昇して母乳が出てきます。
しかし、産後の間もない時期は、赤ちゃんもママも慣れていないので、なかなかおっぱいを上手にあげられないのは自然なことなのです。コツコツ授乳を続けていると徐々に分泌量が増えていくので、焦らず、赤ちゃんが欲しがったときに欲しがるだけあげるようにしてください。
このとき、赤ちゃんに乳輪部まで深くくわえてもらうことがポイントです。慣れないうちは赤ちゃんが浅く吸ってしまうことで乳首に傷がつき、授乳時に痛みが生じることがあるためです。また、赤ちゃんが深くくわえると乳首に傷がつきにくくなるだけでなく、母乳の分泌もよりよくなることが期待できます。
関連情報:産後、母乳の出がよくないのは自然なこと?助産師が教える母乳の出をよくするコツとは
おっぱいマッサージ(母乳マッサージ)も効果があることがあります。助産師訪問などの際に教えてもらって取り入れてみましょう。水分をたくさん摂取したり、栄養バランスのよい食事をとったりすることも心掛けてくださいね。
関連情報: 母乳の出をよくするために妊娠中からできる正しいおっぱいマッサージとは?【助産師解説】
Q3)生後4ヵ月の赤ちゃん、遊び飲みが多くて日中は集中して飲んでくれません。
生後3~4ヵ月頃から周囲の物や音に興味をもち始めるので、遊び飲みが始まることが多いようです。赤ちゃんの成長の証といえるかもしれませんが、ママは飲んでくれないと心配になってしまいますよね。
そこで、テレビを消したり、窓を閉めたりして赤ちゃんが集中して飲めるような環境にして授乳するようにしましょう。それでもなかなか遊んでいて飲まないようであれば、「今はおなかが空いていないのね」と割り切り、一度授乳は切り上げてください。
次におなかがすいたとき、眠くなったときなどに集中して飲んでくれるかもしれません。
関連情報: 赤ちゃんの成長と飲み方 - さく山さんの母乳育児講座
Q4)おっぱいが張って痛いときはどうしたらいいの?
張っている原因やおっぱいの状態によって対処が異なります。症状がひどいときは乳腺炎や、乳頭に白いものができる白斑などの可能性もあるので、出産した産院や母乳外来などを受診するのがおすすめです。
受診までに痛みがつらい場合は、タオルで包んだ保冷剤などでやさしく穏やかにおっぱいを冷やしてみてください。冷やすことで母乳を作る働きが抑えられ、張りが和らぐことがあります。
また、搾乳したり、赤ちゃんに母乳を飲んでもらう方法も解決策のひとつです。ただし、母乳は飲んだ量を生産してしまうため、痛みがラクになる程度に少しだけ搾ったり飲ませたりするよう気をつけましょう。
原因や症状などは一人一人異なるので、痛みがおさまらないときは、できるだけ早めに専門家に診てもらうと安心ですね。
関連情報: 母乳が出すぎてつらい!母乳が出すぎる原因と対処法を助産師が解説
Q5)夜間にまとまって眠るようになり授乳間隔があいてしまいます。起こして飲ませた方がいい?
夜間授乳がなくなってきたということですね。新生児期の赤ちゃんは1回で飲める量がとても少ないので、もし夜間眠っているようであれば起こして飲ませた方が安心です。
しかし、生後1ヵ月以降の赤ちゃんについては、基本的には朝までぐっすり眠るようであれば起こしてまで授乳しなくてもよい場合が多いです。具体的には、次の場合は無理に起こして飲ませる必要はないでしょう。
・生後1ヵ月以降の健康な赤ちゃん
・1日18~30gの体重増加があり、成長曲線内のカーブに沿って上昇している
・生後10ヵ月以降で、離乳食が3回食になっている
・起こして飲ませてもあまり飲まない
ただし、ママの母乳の分泌が盛んな場合、夜間にも授乳をしないとおっぱいが張って痛みを伴うことがあります。また、母乳がおっぱいに溜まっている時間が長いと乳腺炎になるリスクも。そのようなときは授乳間隔を長時間あけずに夜間も授乳したほうが、おっぱいの張りがおさまってママがラクになります。
母乳分泌が盛んで張ってしまうなど乳腺炎の懸念がある方や、以前に乳腺炎になったことがある方は次の記事も参考にしてください。
関連情報: 産婦人科医が教える、乳腺炎の原因と乳腺炎を予防する4つの方法
Q6)高齢出産ですが母乳育児はできますか?
可能です。母乳がたくさん出るかどうかは、個人差はありますが、年齢は関係ないといわれています。赤ちゃんが生まれたらたくさん吸ってもらって母乳の分泌を促しましょう。
ただ、母乳育児は授乳を誰かに代わってもらえないのでママは寝不足になりがち、疲労が溜まりがちです。高齢出産の場合は、ママの体力や健康を維持するために工夫が必要かもしれません。
授乳に専念できるように、パートナーに授乳以外の赤ちゃんのお世話を積極的にしてもらう、家事は宅配や総菜なども活用するなど、いろいろなサービスを上手に活用しながら無理をしないようにしましょう。また、ときには搾母乳やミルクを家族に飲ませてもらってママは睡眠をとったり、体がつらい場合は、産後ケア施設を利用したりするのもよいと思います。
母乳育児を軌道に乗せるには、ママが健康であることが大事なので、無理をせずに母乳育児を楽しめるとよいですね。
関連情報: 高齢出産ママは母乳が出にくい?アラフォーママが母乳育児を軌道に乗せるためのポイントとは
Q7)母乳育児をしていると生理再開が遅れるの?
赤ちゃんに母乳を飲ませていると、排卵をおさえる働きをするプロラクチンというホルモンが分泌されるので、生理再開が起きにくくなります。ですが、プロラクチンの分泌量は授乳中も少しずつ減少していくので、授乳中に生理が再開する方も多くいます。とくに夜間の授乳間隔があいてくると再開する場合があります。再開する時期には個人差がありますが、産後3~4カ月頃が平均的です。
また、授乳中は産後1年以上たっても生理が再開しない場合もありますが、授乳をやめると90%以上の方が生理が再開するといわれています。もし断乳や卒乳後6週間以上たっても再開しない場合は、出産した病院や婦人科に基礎体温の記録を持参して相談しましょう。基礎体温は最低1ヵ月間ほど記録しておくとよいですね。
なお、生理が再開すると、生理期間中の母乳の分泌量が減るなどの変化がみられることもありますが、授乳は続けていても問題はありません。
まとめ
母乳育児は赤ちゃんの成長にもともなって安定していくことが多いですが、ママの悩みや疑問は月齢や発達に応じて尽きないかもしれません。身近に相談できる母乳外来や母乳相談室などを見つけて、気になることがあれば相談できるようにしておくと安心ですね。
【プロフィール】
榎本美紀
2001年に助産師免許取得後、杏林大学医学部付属病院・さいたま市立病院・順天堂大学練馬病院の勤務を経て、2013年に埼玉県さいたま市に訪問型の助産院「みき母乳相談室」を開業。病院勤務での経験を元に、地域の母乳育児を支援している。訪問時の相談は、母乳だけではなく離乳食や抱っこひも、スキンケア、寝かしつけなど多岐にわたる。また、おむつなし育児アドバイザーとして、トイレトレーニングなどの相談も受け付けている。自身も一児の母として子育てに奮闘中。
「みき母乳相談室」