搾乳をして母乳を保存しておくといざというときに便利ですが、「搾乳のやり方がいまいち分からない」という方も多いと思います。急に必要になったときにあわてることのないよう、あらかじめ搾乳の方法を理解しておくと安心ですね。
そこで今回は搾乳の方法と出ないときの対処法などについて、杏林大学保健学部看護学科の准教授である助産師の加藤千晶先生にお話を伺いました。搾乳しても思うように母乳が出ないと悩んでいる方もぜひ参考にしてくださいね。
そもそも搾乳はなんのために必要?メリットは?
搾乳は、おもには母乳育児を希望している場合に、ママが授乳を誰かに代わってもらうときなどに役立ちます。
たとえば、赤ちゃんが入院することになったときや保育園に預ける間に母乳を飲ませてもらいたい場合や、おっぱいや乳首にトラブルがあり、直接吸われるのがつらい場合にも、一時的に哺乳瓶で母乳をあげることができます。またママが体調を崩している、外出の用事があるなどのときも、搾乳して母乳を保存しておけば家族に母乳を飲ませてもらうことができます。
搾乳は、赤ちゃんと離れているときやママの体調が悪いときにも母乳育児を続けることができる点がおもなメリットです。
上手に搾乳する方法(搾乳器を使う場合、手で搾る場合)
搾乳には搾乳器を使う方法と、手で搾る方法があります。どちらの場合も、清潔で落ち着ける環境でおこなうことが大切です。それぞれの方法についてみていきましょう。
●搾乳器を使う場合の上手な搾乳方法
1)搾乳口のトンネル部分の真ん中に乳首がくるようにして、搾乳口をおっぱいにピッタリ装着します。搾乳口とおっぱいに隙間があるとうまく吸引されないので気を付けましょう。
2)電動も手動式も、はじめは弱めの吸引圧にして小刻みに吸引圧を加え、母乳の分泌を促します。(このような動きができる「搾乳前の準備用モード」が備わっている搾乳器があります。)
3)母乳が出始めたら吸引圧を少し強くして吸引します。ママが心地よく感じる範囲で調節しましょう。
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●手で搾る場合の上手な搾乳方法
1)手を洗って清潔にし、絞った母乳を入れる容器を用意します。
2)搾乳しない方の手で容器を持って乳首の下に固定します。
3)少し前かがみになり、親指と人差し指を乳輪部より指一本分外側に添えます。
4)親指と人差し指の腹を合わせるように乳房の奥の方でつまむようにして、赤ちゃんが吸うときのように刺激します。それを繰り返すと母乳が出てきます。指をあてる位置を上下・左右・斜めなどにずらしながら繰り返しましょう。何度もやってみるとコツがつかめてくると思います。
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搾乳しても出ないときの4つの対処法
なかなか搾乳がうまくできない場合は次のことを試してみましょう。
【対処法1】直接授乳した直後に搾乳してみる
母乳はオキシトシンというホルモンによって分泌されます。赤ちゃんにおっぱいを吸われたりする刺激によりオキシトシンが分泌されるので、搾乳よりも直接吸われる方が母乳は出やすいです。
そこで、赤ちゃんにおっぱいを直接飲ませて母乳が出始めた後に搾乳してみましょう。乳首に痛みがあって搾乳が必要な場合であれば、直接飲ませるときには乳頭保護器を装着しておこなうとよいでしょう。
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【対処法2】搾乳器の搾乳口やカップのサイズを見直す
搾乳器で上手に搾乳するにはママの乳首のサイズにあった搾乳口やカップのサイズを使用することが大切です。
乳首の直径を測って、乳首の直径よりも少しトンネル部分にゆとりがあるぐらいの搾乳口のものを選びましょう。母乳が出るときは一時的に乳首の直径が2~3㎜ほど大きくなるので、ゆとりがないと乳首が自由に動けないからです。また、カップは乳輪を十分覆っている大きさのものをおすすめします。
なお、左右の乳首の大きさが異なったり、授乳期間を通して変わったりすることもあるのでよく観察して自分に合ったサイズを選んでくださいね。
【対処法3】オキシトシンの分泌を促す
オキシトシンは母乳の分泌に不可欠なホルモンです。ストレスや不快感などがあると、オキシトシンの分泌が少なくなってしまうので、今一度自分がリラックスできているか見直しましょう。
人によりリラックスできる環境は異なりますが、たとえば、スマホを遠ざける、テレビを消す、好きな音楽をかける、姿勢を変えるなど自分が心地よいと感じるような環境作りを心がけてください。
また、赤ちゃんの顔を見ながらおこなうこともオキシトシンを分泌する効果があるといわれているので赤ちゃんのそばでおこなったり、近くに写真を置いてみるのもよいかもしれません。
【対処法4】手搾りなら搾乳器に変えてみる
手で搾る場合は、慣れやコツが必要になり、電動搾乳器や手動搾乳器を利用するよりやや難しいかもしれません。そこで、電動搾乳器や手動搾乳器を利用して再度トライしてみてはいかがでしょうか。射乳反射を引き出すためのモードが備わっている搾乳器もあるので、活用することで母乳の分泌がよくなるかもしれません。
まとめ
母乳の出方はママによって個人差があるので、搾乳したときの出る量にも違いがあります。母乳がうまく搾乳できない場合は、今回紹介した対処法を試してみてください。母乳が乳房に溜まり続けると乳房トラブルにつながることもあるので、なかなかうまくいかないときは母乳外来や母乳相談室などで専門家に相談しましょう。
【プロフィール】
加藤千晶
杏林大学保健学部看護学科 准教授
助産師として約10年大学病院にて勤務。その後、看護・助産教育に約15年携わり、産科病院にて看護部長を経験。現在、杏林大学保健学部看護学科准教授として助産師教育に携わっている。