「授乳は痛い」と噂で聞いて不安になるという声が聞かれます。痛くなる理由、どんな痛みかについて、一児のママであり、「助産師サロン」を運営する助産師の高杉絵理さんに教えてもらいました。痛くならないための授乳のコツも紹介します。
「授乳は痛い」って本当?
授乳をすることは、必ずしも痛みにつながるわけではなく、本来痛いものではありません。ですが、初めての母乳育児では、おっぱいトラブルによる痛みや、授乳姿勢によって腰痛などが起こる場合もあります。
ほとんどの人が初めての授乳はうまくいかず、戸惑うものですが、毎日頻回に授乳をすることでママも赤ちゃんも授乳に慣れていきます。また、吸われることで乳首はやわらかくなり、乳首を深く上手にくわえさせることができるように。上手に吸ってもらうことで乳房に溜まった母乳も効果的に飲んでもらうことができるでしょう。ママと赤ちゃんが授乳に慣れるに従い、授乳の痛みもなくなっていき、母乳育児が軌道に乗っていきます。
授乳で痛いのはどんなとき?
ママたちが悩みがちな授乳の痛みについて、理由を解説します。
乳首が切れたとき(乳頭トラブル)
乳首のくわえさせ方が間違っていて、浅く吸われると、乳首が切れてしまい、授乳のたびに痛みを感じます。また、乳首に水疱ができたり、白いプツプツとした白斑ができたりすることもあります。
おっぱいが張っているとき
産後すぐは、乳管がしっかり開通していないため、乳房に溜まった母乳が効率的に排出されずにおっぱいが張り、痛みを感じることが多いです。また、ママが授乳に慣れていない、もしくは赤ちゃんが上手に飲めないために、乳房に母乳が残ることもあります。作られる母乳の量と、赤ちゃんが飲む量のバランスが取れていないときもおっぱいが張りがちです。
授乳姿勢が悪いとき
授乳時に前かがみになっているなど姿勢が崩れている、赤ちゃんを抱っこするときに手首など同じ部位への負荷がずっとかかることなどで、腰痛や肩こり、腱鞘炎などが起こります。また、産後は体の回復過程のため、骨盤が緩んでいる、ずれているなどが原因で腰痛や肩こりが起こります。
上記のほか、産後すぐは授乳時に子宮が収縮して陣痛のような痛み(後陣痛)を感じることもあります。これは、おっぱいを吸われることで分泌されるホルモンが、「母乳を作る」、「母乳の分泌を促進させる」という働きがあるとともに、子宮の収縮を促し、子宮の回復を助けるためです。経産婦さんのほうが、痛みが強いといわれています。
痛みだけでなく、ホルモンの影響によりかゆみを生じやすくなっていたり、肌が過敏になることもあり、それを不快に感じたり、乾燥などが原因でかゆみを生じることもあります。また、D-MER(ディーマー)という、授乳時にイライラしたり落ち込んだりと不快を感じる現象が起こる方がいることが最近わかってきていて、注目されています。
痛みを防ぐためのコツは?
授乳でなるべく痛くならないように、痛みを防ぐコツを紹介します。
乳首が切れる(乳頭トラブル)を防ぐには?
授乳に慣れないころ(乳首が硬いとき)は、授乳前に乳頭のマッサージを行い、やわらかくほぐしてから授乳するのがおすすめです。正しい授乳姿勢で、乳輪部分まで深くくわえて吸わせるようにします。
乳首が切れてしまったら、切れたところに乳頭保護クリームやオイル、母乳を塗布します(母乳には保護と殺菌効果があると言われています)。そして、痛みが強く授乳が難しいときは、搾乳した母乳を飲ませるなど、乳首を休ませることが基本の対処法です。痛みがつらいときは、鎮痛剤を内服してもOKです。
もし、それほど痛みがなく授乳が可能なら、引き続き正しい授乳姿勢で授乳を継続しましょう。その際に、ニップルシールド(乳頭保護器)を乳首につけて授乳すると、赤ちゃんがおっぱいを吸うときに乳首の傷に直接触れないので、痛みを軽減しやすくなります。
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おっぱいの張りによる痛みを防ぐには?
授乳リズムが確立してくる時期には個人差がありますが、1、2ヵ月はまだリズムが確立せず授乳に大変さを感じ、乳房トラブルが多い時期です。赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけ頻回に授乳をして、しっかりと母乳を飲んでもらいましょう。
4ヵ月以降になってくると胃の容量も大きくなるので、まとまった量を飲めるようになり、多くのママは授乳がラクになったと感じるでしょう。そして、脳の機能が発達し、少しまとまって寝てくれる赤ちゃんもいます。
そのため、せっかく母乳育児が軌道に乗ってきたのに、この時期に夜間の授乳回数が減ったことによりおっぱいが張るなどの乳房トラブルを起こす方も中にはいます。夜間授乳間隔が空いてつらいときは、搾乳をすると良いでしょう。ただし、搾り過ぎると母乳の分泌を促し、分泌過多につながることがあるので、張りが和らぐ程度の少量にとどめてください。
おっぱいの張りが強いと、赤ちゃんが吸いづらく、飲ませにくいときもあります。そんなときは、授乳前に乳輪部をほぐしてから授乳してみましょう。先に少し搾乳すると、張りが軽減し飲みやすくなることもあります。このときも、搾乳は張りが和らぐ程度の少量にとどめましょう。
張りが強いときは、授乳前に乳房を温めるのも効果的です(温水で濡らしたタオルや電子レンジで温めた蒸しタオルを乳房に当てる、温かいシャワーを浴びるなど)。痛みが強いときは受診するのがおすすめですが、受診まで、授乳後に冷やしたタオル(冷水で濡らしたものでOK)や保冷剤を包んだタオルなどで乳房をやさしく穏やかに冷やしてもいいでしょう。
張りだけでなく、乳房に赤みや痛みがあるとき、ママが発熱や関節痛などの症状があるときは乳腺炎の可能性もあります。鎮痛剤を内服し、頻回授乳や搾乳をして、十分な休息や水分、食事摂取をしましょう。
授乳・搾乳前には乳房を温めて分泌を良くして母乳をしっかりと出し、授乳・搾乳後には冷やして炎症を抑え、痛みの軽減を図ります。それでも改善しなければ、助産師訪問、母乳外来、母乳相談室などで助産師に相談しましょう。
授乳姿勢による腰痛などを防ぐには?
正しい姿勢で授乳することを意識します。授乳クッションを使ったり、ソファやクッションを利用したりして、体に負担が少なく、ラクに授乳できる工夫をしましょう。添い乳も効果的です。
いろいろ試してもうまくいかないときや不安なときは、助産師訪問、母乳外来、母乳相談室などで助産師に相談してアドバイスを受けましょう。肩周り、肩甲骨周りのストレッチ、腱鞘炎対策の手首のストレッチなども取り入れるといいですね。
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まとめ
授乳は痛いと聞くこともありますが、必ず痛みを伴うものではありません。一人ひとりに個性があるように、おっぱいもみんな違うもの。おっぱいはトラブルにならないようにお手入れをしたり、授乳の工夫次第で痛みを予防したりすることができます。安心してお子さんとの幸せなおっぱいタイムを楽しみにしていてくださいね。
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【プロフィール】
高杉絵理
看護師、助産師、保健師の資格を取得。総合周産期母子医療センターの産科やNICU、産科クリニックで経験を積む。現在は世田谷区の保健センターで妊婦さんやママたちの相談業務に携わる。助産師にオンラインで相談できる「助産師サロン」も運営。自身も1児の母として育児に奮闘中。
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