出産したら母乳で育てたいと思っている妊婦さんは多いと思いますが、産後の母乳育児をスムーズにするために、妊娠中からはじめられる準備があることをご存じでしょうか。準備をしておくことで、産後、母乳が出やすくなる、授乳トラブルを軽減するなどの効果を期待できるのです。
そこで今回は、助産師であり杏林大学の准教授である加藤先生に、妊娠中からはじめられる母乳育児の準備についてお話を伺いました。
母乳で育てたいと考えている妊婦さんはぜひ参考にしてくださいね。
妊娠すると女性のからだは母乳育児の準備をスタートする?!
実は妊娠中から母乳を出すための準備は始まっています。妊娠すると、出産後に母乳を出すために乳腺を発達させるホルモンの分泌が盛んになるのです。
しかし妊娠中は母乳が出るのを抑えるホルモンが働いているため、母乳は出ることはありますが、ほんの少しです。
また、妊娠によって増えたホルモンの影響で、乳首の色が黒ずんでくることがあります。これは、産後、赤ちゃんに強い力で吸われても大丈夫なように乳首を丈夫にしている、また、赤ちゃんにとって乳首が見つけやすくなるためなどといわれています。
このように妊娠するとおっぱいは母乳育児に向けて準備を始めますが、産後は赤ちゃんがママのおっぱいを吸うことで母乳が出やすくなります。
つまり、生まれたばかりの赤ちゃんにとってママのおっぱいが吸いやすいおっぱいであることが、母乳育児をスムーズにさせるために大事なポイントといえるでしょう。
妊娠中にしておきたい母乳育児の4つの準備
出産後の母乳育児を軌道に乗せるために、妊娠中から準備を始めておきましょう。
1)乳頭のケアをしておく!
母乳育児の悩みに「赤ちゃんが吸いにくそう」「乳首に傷が付いて痛い」「思うように母乳が出ない」というものがあります。赤ちゃんがしっかり吸うことで母乳の分泌が促進されるので、妊娠中に乳頭ケアをしてよく伸びるやわらかい乳首にしておきましょう。
乳頭ケアは赤ちゃんが吸いやすくなるほか、乳首の裂傷を予防してくれますし、吸いやすくなるので母乳の分泌がよくなる効果も期待できます。
目安として妊娠20週頃から始められますが、おっぱいのケアは子宮収縮を引き起こし、おなかの張りを促すことがあります。自己判断で始めずに、必ずかかりつけの医師や助産師に相談して指導を受けてから始めましょう。
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2)からだを温めて血の巡りをよくしておく!
母乳は血液でできているので、母乳の出をよくするためには血の巡りをよくしておくことが大切です。そこで、根菜などのからだを温める食べ物を食べる、温かい飲み物を飲む、湯船につかる、ストレッチをしてからだを適度に動かすなど、体内を温める工夫をしましょう。
ストレッチがつらい場合、手首、足首を回したり、ふくらはぎを揉んだりするだけでも効果があるようです。授乳が始まってからは、とくに肩を回すと授乳による肩こりの改善につながります。
また、妊娠中はホルモンの影響で乳腺が発達します。乳腺周囲の血行がよくなるように、ブラジャーはサイズを乳房の大きさの変化に合わせて大きくして、ノンワイヤーで締め付けないものを選ぶようにしましょう。
3)栄養バランスのよい食事や適度な運動で体力をつけておく
母乳はママのからだから作られるので、栄養バランスのとれた食事を摂っていることが大切です。
母子健康手帳に記載されている「妊産婦のための食事バランスガイド」を参考にして、最近足りていないと感じるものがあれば食事にとり入れるようにしましょう。1日1回「定食」のような食事を心がけるようにしてみてください。
また、生まれてすぐは授乳回数が頻繁で体力が必要です。妊婦体操やマタニティウォーキングなど、適度な運動で体力をつけておくといいですね。
4)家族に母乳で育てたいことを伝えておき、協力してもらえるように話しておく
赤ちゃんがおっぱいを欲しがったときに欲しがるだけ授乳ができるように、夫や家族には料理、洗濯、掃除などの家事をお願いしておくといいですね。
母乳で育てたいというママの気持ちや、母乳で育てることの利点、赤ちゃんの生活リズムなどについても家族に理解してもらうとよいでしょう。
もしも家族に頼れそうにない場合は、利用できそうな行政や民間のサービスについて調べておくとよいですね。
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まとめ
産後、母乳がよくでるおっぱいにするコツは、赤ちゃんにたくさん吸ってもらうこと。妊娠中に赤ちゃんが吸いやすい乳頭の状態にしておけるとよいですね。ただし、おっぱいのケアをする際は、必ず医師や助産師さんの指導を受けながら進めてください。
また妊娠中に準備をしていても、産後の母乳育児は思うように進まないこと、悩むこともあるでしょう。そんなときは一人で悩まず近くの助産師に相談してください。妊娠中に、お住まいの地域にある母乳外来や母乳相談室について調べておくと安心ですね。
【プロフィール】
加藤千晶
杏林大学保健学部看護学科 准教授
助産師として約10年大学病院にて勤務。その後、看護・助産教育に約15年携わり、産科病院にて看護部長を経験。現在、杏林大学保健学部看護学科准教授として助産師教育に携わっている。