母乳育児をいざ始めてみると、思うように母乳が出なかったり、飲んでいると思ったのに赤ちゃんの体重の増えが良くなかったりということも少なくありません。それはもしかしたら、ママのおっぱいが、まだ赤ちゃんが飲みやすいおっぱいになっていないからかもしれません。飲みやすいおっぱいとは、どんなおっぱいなのでしょうか? 杏林大学の加藤准教授に教えていただきました。
はじめに、おっぱいを飲むときの赤ちゃんの口の動きを知っておこう
赤ちゃんが母乳を飲むというと、「大人がストローで吸って飲むような感じかな?」と想像するかもしれませんね。でも実際は、赤ちゃんは吸っているのではなく、独特な口の動きをして飲んでいるのです。
おっぱいを飲むとき、赤ちゃんは唇を大きく開いて、乳首から乳輪部分まで全体をパクっとくわえます。赤ちゃんにとって唇は吸盤のような役割を果たします。そして、赤ちゃんの舌が巻き付くようにママの乳首を包むと、舌を波のようにうねらせ、絞り出すようにして母乳を引き出します。この舌の動きによって、ママの乳首と乳輪部が前後に伸び縮みして、母乳が出てきます。
この独特の舌の動きをスムーズに行うためには、赤ちゃんがママの乳首だけでなく、乳輪部まで深く含む上手なラッチオンが大切です。そして、ラッチオンがうまくいくと、赤ちゃんはしっかりとおっぱいが飲めるようになり、ママの母乳の分泌もよくなります。
赤ちゃんもママも授乳に慣れないうちは、ラッチオンがうまくいくまで時間がかかるかもしれません。でも、いろいろ試しながら続けていくことで、ママと赤ちゃんに合った授乳姿勢がみつかり、うまくラッチオンできるようになるでしょう。うまくいかないときは、母乳外来などを利用して、飲ませ方などをトータルで見てもらいましょう。
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赤ちゃんが飲みやすいおっぱいって?
おっぱいを飲むときの口の動きがスムーズにいく、やわらかくて伸びがいい乳首・乳輪部が赤ちゃんにとって飲みやすいおっぱいです。逆に乳首や乳輪が硬いと、赤ちゃんがおっぱいを吸うのにパワーが必要になり、強く吸われることでママの乳首に傷ができてしまうこともあります。赤ちゃんは乳首だけでなく、乳輪全体を口に含んで飲みますから、乳首だけでなく、乳輪までやわらかくなるようにお手入れしておくといいでしょう。
飲みやすいおっぱいのために、妊娠中からケアをしよう
赤ちゃんが飲みやすいおっぱいにするためには、妊娠中から乳首・乳輪のマッサージをしておくとスムーズです。摩擦を少なくする意味も含めて、馬油やラノリンといった保湿効果のあるものを塗布してマッサージすることもあります。ケアの仕方がわからないときは、妊婦健診や助産師外来で相談してみましょう。ただし、妊娠中におっぱいを刺激するとおなかの張りを促すことがあります。特に切迫早産気味の方、正産期(妊娠37週)以前の方は、必ず医師や助産師に確認し、指導を受けてからおこなって下さい。
乳首の形(陥没乳頭・扁平乳頭)、乳首が短い、乳輪が大きいなどの特徴があると、赤ちゃんが飲みやすいおっぱいにならないのでは? と心配されるかもしれません。ママによっては母乳育児が軌道に乗るまで少し時間がかかるケースもありますが、ケアを心掛けることで、飲みやすいおっぱいにすることができますから安心してくださいね。ママ一人ではうまくいかないとき、気がかりがあるときは、抱え込まずに妊婦健診時に相談したり、産後も母乳外来や新生児訪問(助産師訪問)を利用したり相談してみてください。
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まとめ
多くのママができれば母乳で育てたいと思っていると思います。無理をしないで、授乳を楽しむくらいの気持ちで母乳育児を目指してください。まずママがニコニコ育児ができ、赤ちゃんがすくすく育つことが一番大切。母乳育児で困ったときは、妊婦健診や助産師外来などで遠慮せずに相談してくださいね。
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【プロフィール】
加藤千晶
杏林大学保健学部看護学科 准教授
助産師として約10年大学病院にて勤務。その後、看護・助産教育に約15年携わり、産科病院にて看護部長を経験。現在、杏林大学保健学部看護学科准教授として助産師教育に携わっている。