母乳育児をしていて乳腺炎になってしまった、ということは意外によく聞きますが、まさか自分がなるなんてことはあまり想像しないものですよね。いざ乳腺炎になったときにどうすればいいのか、母乳育児は毎日のことだからちゃんと知っておきたいものです。
今回は、産婦人科医の十倉陽子先生に話を伺いました。
「乳腺炎」とは何か教えてください。
乳腺炎は産後であればいつでも起こり得るのですが、特に産後6週間以内程度に起こることが多く、乳腺部分の腫れや、それによって起こる発熱のことを指します。
乳腺炎といっても、主に以下の2種類があります。
・うっ滞性乳腺炎
初乳が出ると、乳腺からの母乳の分泌が徐々に完成していきますが、母乳の流出が妨げられると乳汁がうっ滞してしまい、痛みやしこり、軽い発熱などを起こしてしまいます。
・化膿性乳腺炎
乳頭の傷などから細菌が侵入し、乳房が全体的に赤く腫れて強い痛みや高熱を起こしてしまいます。
乳腺炎になったら、母乳育児はやめなければいけないのでしょうか?
私も、子ども2人を部分的に母乳で育てましたが、仕事復帰や日々の疲れもあり、うっ滞性乳腺炎を抱えながら仕事をしていました。
うっ滞性乳腺炎では、母乳が溜まらないように授乳を続けることが大切です。
そのため痛みがあっても、特に腫れている方の乳房から授乳をおこない、うっ滞を取り除くようにしていました。
抱っこの仕方や向きを変えたり、搾乳器を使ったりして、痛みを自分でコントロールしながら母乳育児を続けるのもよいでしょう。
また、助産師さんなどにマッサージしてもらうことも有効ですので、試してみてくださいね。栄養不足やストレスは乳腺炎の誘引になることがありますので、忙しい時期ですがご自身の心身もいたわってあげることが大切ですよ。
1~2日でうっ滞性乳腺炎が悪化してくる場合や、乳房が痛くなってその部分に硬さがあり、発熱があったり化膿性乳腺炎と疑われたりした場合には、抗生物質を飲む治療が必要になることもあります。
化膿性乳腺炎では、抗生物質で治ってしまうことがほとんどですが、まれに膿が溜まってしまったり、乳腺炎以外の病気が隠れていたりすることもあるため、自己判断せず、早めに病院を受診するようにしてください。
最後に
乳腺炎のツラさから母乳育児をやめてしまいたくなることもあると思いますが、まずは、赤ちゃんにしっかり吸ってもらうことが症状を改善する助けになりますので、休息をとりながら授乳を続けてみてください。
【著者プロフィール】
十倉 陽子
大学卒業後、総合診療、家庭医、地域医療を初期研修で学び、産婦人科医局に入局。
婦人科良性腫瘍手術、性感染症、女性医療、婦人科悪性腫瘍、周産期医療、新生児治療の研修を踏まえ、現在は不妊治療専門施設に勤務。体外受精を含む不妊治療を中心に、その他女性のトラブル全般に対応できる女性の全人的医療者を目指しています。二児の母。現在英ウィメンズクリニック勤務。